確信犯かそうじゃないかって聞かれたら、そりゃもう前者なわけで。 ガイドユーフォワード 「ヴァニラさん、そこ足場悪いから気をつけて」 急に振り返ったと思ったら、ホープはそんなことを宣った。 呆気にとられつつ、あたしの口は律儀にお礼を述べた。 ここはサンレス水郷、一年中湿気に晒されているせいで、苔むしたりぬるぬるしたりといった岩場がたくさんあって、慣れるまでは歩き回るのも大変だった。 最近は裏道や抜け道を探すことが多く、自然足場の悪い場所を飛び回ることが常だった。 それでもクリスタルになる前までグラン=パルスで逞しく生活してきたあたしだから、たまに転びそうになることはあっても怖じ気づいたりとかどこを歩いていいのかわからなかったりとか、そういうことはなかった。 ・・・でも。 「こっちのがいいですよ、ほら」 「あー・・・、うん、そう?」 おいで、と促されて、しぶしぶ。 手を差し伸べるこの子からしたら、あたしは頼りないのかな。 「ヴァニラぁ、随分可愛がられてるな?」 そう言って悪戯に肩に手を回してきたのはファング。 当然彼女にあの子が手を差し伸べるなんてことはない。 だってファング、頼りになりすぎだもの。 あたしと、違って? 「バカにされてるとは言わない?」 冗談半分、あとは結構、本気。 だって子ども扱いみたいじゃない?あれ以来。 「さすがにそれ言ったらあいつに失礼だろ」 唇を尖らせたあたしの額を小突いてそう言ったファングは、呆れたように笑った。 ・・・これ、今こそファングにバカにされてるよね。 でも何も言い返せなくって、小突かれたところを撫でながらファングの背中を見送った。 うん、後ろから見ても頼り甲斐あるや。 彼女が追いついたライトの背中も、ライトの隣のスノウのも。 ちょっと離れたところで飛んでいっちゃったあのヒヨコを追いかけてるサッズのも。 ・・・あれ以来、あの小さな背中さえも。 (あれ、もしかして・・・あたしだけ?) 黙々と進む、サンレス水郷。 但しあたし以外は皆楽しそう。 相変わらずチラチラこっちを気にしてるあの子も、その実楽しそう。 あたしは・・・むくれてる、わけじゃ、ないんだけど。 ・・・楽しくないわけでも、ないんだけど。 「ヴァニラさん」 「んー?」 そんな複雑な気分の中名前を呼んだのは、やっぱりというか案の定というか。 「大丈夫ですか?疲れた?」 「・・・言っとくけどねぇ!」 「えっ」 別にムカついたとかでもなくて、かといって嬉しかったわけでもなくて。 「あたし、ホープよりずうっと、実践慣れしてるんだからね!」 「えっ」 「グラン=パルスだって歩き慣れてるし!その気になれば道案内だってできちゃうんだから!」 「ヴァ、ヴァニラさん?」 「だからっ、その、・・・」 だから、何だろう。 これ以上手助けはいらない? 余計な気は回さないで? 違う、そういうイヤミ、言いたいんじゃなくて。 あたしはさっきから気づいてた。 ずーっとモヤモヤしてたこれが、バカにされてるみたいでムカつくとかではなくて、グラン=パルスの先輩として沽券を守りたいとかでもないってこと。 だってモヤモヤの反面、ドキドキしてるのだもの。 この子のおっきい瞳が、とんでもなくあたしを引き込むんだもの。 「でもね、ヴァニラさん」 心配だろうが何だろうが、いつも見てもらえてるのは、とってもくすぐったいのだもの。 「僕は、あなたに手を伸ばしたいって思っちゃうんです」 「・・・っ」 「嫌なときは、嫌って言って。それ以外は・・・見逃してください」 にっこり笑って、そのくせ眉尻を下げて、何だか寂しく見えて。 いつか見た、一人ぼっちの猫を思い出しちゃって。 「・・・」 また、何も言えなくなっちゃった。 「ぶーたれちまってるよヴァニラの奴」 「これ以上なく下唇突き出してるぜ。いかりや長介かっつの」 「誰だそれは」 「しっかしホープ、クサいな・・・」 (大人4人に更に見守られてたことは、ずーっと後に気がついたこと) おわり ヴァニラちゃんが心配で心配で仕方がないホープくん。反発しつつ喜んでるヴァニラちゃん。その後ろを温かく見守るおにいさんおねえさん。笑(20120917) |