決して一時の気の迷いなどではなかったけれど、改めて考えると中々の一大決心をしてしまったと今でも思う。
あれだけ一途だったのに、自分のあらゆることに対して。
しかしそれでも動かされてしまったのだから、自然と手も足も口も動いてしまったのだから、最早仕方がなかった。
自分でも気がつかなかっただけ、これが本心であったのだ。

この時代に来て、どれ位のときが経っただろう。少なくともあの頃にはもう、戻れない。









with lovers









薄く開いた目の中に一気に眩しい光が射し込み、セラは思わず強い瞬きをした。
今日は少し起きるのが遅くなってしまったようで、いつもなら寝床まで差し込まない陽の光に襲われてしまった。
無意識に隣の毛布をまさぐったけれど、そこには熱すら残っていなかった。
思わず眉を寄せてしまったが、行き先はわかっていたので、仕切り直すように伸びをした。
いつ彼が帰って来てもいいように、準備をしなければ。

「ただいまー」

聞き慣れた、それでいて大好きな声が聞こえた。
準備をしようと意気込んだところで帰ってきてしまったので顔を洗うことしかできなかったけれど、もう致し方ない。
声の主の笑顔を思い浮かべ、自然と胸が弾み、彼に抱き締めてもらうために走った。
家を飛び出すと、すぐさまその人は見つけられた。

「お帰りなさ・・・、う、わ」

しかし歓迎の声と広げた両手は思わず引っ込める結果となった。
彼の引きずってきたもの・・・ベヒーモスの姿が目に入ったからだ。
ついでに言えば、ベヒーモスと目が合ってしまった上にその頭を彼の血塗れの手がわし掴んでいたのだから、ムードも崩れるというものだ。

「おはようセラ。朝ごはんにしようか」
「んも〜、ノエルってば・・・」
「ん?」

セラに呼ばれた彼・・・ノエルは、何故セラが苦言を強いたげであるのかわからないようで、目をぱちくりとさせた。
しかしそれも致し方ない話である。
セラの時代ならば食事といえば既に調理された料理がテーブルに並ぶのが当たり前。
だがノエルにしてみれば、時代と職業相互を考慮すると、その日口に入れられる獲物を捕まえられた瞬間に食事の喜びが始まるわけである。
故に血塗れであろうが仕留めたてであろうが関係ない、ただ嬉しいのである。
始めこそそのジェネレーションギャップとでも言うべき事態に躊躇したセラであったけれど、それが最近わかってきたから、だから嬉しかった。

「ふふ」
「ほら、やっぱりセラもベヒーモス好きだろう?」
「そうだね。とりあえずそれ、どうする?切る?」

笑い合いながらの会話は、実は最初からできたわけではなかった。
この時代に留まる・・・それは決して簡単な決断ではなかったし、またその後も自問自答せざるを得なかったのだ。
何故ならばそれは、今までの大切な人を全て諦めなければならないということを意味していたからだ。

特にライトニングとスノウに関しては思うところがたくさんありすぎて、セラは判断を間違えたのではないかと思ってしまった瞬間すらあった。
そう思う度悲しくて苦しくて、また反面ノエルを裏切っているようで自己嫌悪に苛まれ、息をすることすら億劫になった。

でもその都度、心でも読んだかのようにノエルはいつも以上にセラを甘やかし、愛してくれた。
そんな彼の温かくて優しい感情に包まれて、セラの心が動かないわけはなかった。
それは温もりを求める人間の本能として、また彼と励まし合い助け合い旅をしたセラ・ファロンとして、至極当然の結果であったとも言える。

「じゃあ肉切包丁が必要だな。どこにあったっけ?」
「家の裏かな?あ、私が持ってくるよ」
「いや、俺が探してくる。セラはここにいてくれ」

ついでに手も洗いたいしなと一言残し、ノエルは家の裏へ走った。
その背中を目だけ追いかけながらセラは苦笑し、思う。
その位はできるのだから、あまり甘やかさないでほしいと。
それでも彼の愛情は心地よくて、嬉しかった。

やがて現れたノエルはその場で豪快にベヒーモスを捌き、必要な分だけ布に包みセラに託した。

「ごめん、それだけ頼む。俺はこいつを貯蔵庫に入れてくるから」
「うん、先中入ってるね」

とはいえ家はもう目と鼻の先、十歩も歩かず入れるだけの距離でしかなかったのだから、何を煩うこともなかった。
部屋に入ってすぐあるのは、ダイニング兼リビングとして使っている部屋だ。

「よい、っしょ!」

二年前、二人で切り倒した巨木を加工し、不恰好ながら作ったテーブルの上に勢いよく肉を乗せた。

二人は今、巨人兵が荒らす前にあった集落に暮らしていた人たちの生き残りと、力を合わせて暮らしている。
ノエルが貯蔵庫といった場所も、集落の共同の施設だった。
元いた時代でハンターをしていたノエルは、専ら食糧調達の役割をこなす。
また元の時代で教師をしていたセラは、昼間働く大人たちから小さな子たちを預かり面倒を見ていた。

そして二人が暮らすこの家は、二年前の騒動で亡くなった家族の空き家だった。
亡くなってしまった家族の遺族が、世界を壊さんと暴れた兵を殲滅させてくれた恩人に是非と譲ってくれたのだった。

大人が三人ほど大の字になって寝られそうな広さの部屋が二つ繋がっている。
そのうちの一つの部屋、つまり入ってすぐの方の部屋のど真ん中に件の大きなテーブルが置いてあり、その周りに椅子が四つある。
集落の人がたまに遊びに来るから余分に椅子を置いている、という理由もあるのだけれど、別のことも考えながら二人は余分に椅子を置いたのだ。
それを二人が口にすることは皆無に等しいけれど。
因みにもう一つの部屋が寝室である。

「セラ。薪を集めてきた」
「ありがとう!」

電気がないこの時代では、調理法といえば焼くことが主であった。
それでもセラが自分の時代の知恵をフル活用して料理に彩りを出したり、ノエルが自分の時代の食べ方を思い出しては実践したりしていたので、食卓はいつも賑やかではあった。

この時代に留まって、色々なことを考えた。
それでも今はここで生きていくことに迷いはないし、二人でならこの先何が起きても乗り越えられると思っている、信じられる。

「とりあえず外で焼いて来るから、セラは中にいて」
「大丈夫だよ、一緒に行く」
「でも」
「そんなに過保護にしなくても平気だよ。それに動いた方がいいって、産婆のおばあちゃんが言ってたもん」
「・・・そうか?じゃあ、くれぐれも無理はしないこと」
「はいはい」

その証が今、セラの腹の中で息づいていた。

「セラ」
「ん?」
「触っても、いいかな?」
「うん、勿論」

時たまこうして、ノエルはセラの腹を触る。
そして確かに生きている命をその手で以て直に感じ、感慨深げにするのだ。

初めの頃、何を考えているのかとセラが尋ねると、泣き笑いのような顔でノエルはただ一言、幸せなんだと答えた。
人が死に絶えた世界にただ一人生き残った彼の気持ちを鑑み、また愛する人との間に育まれている新しい命を思い、セラもまた泣きそうになるのだった。

「どう?お父さん」
「ああ、早く会いたいな」
「ふふ、そうだね」

空はいつも焼け尽くしたように哀しい赤色だったけれど。
世界は巨人兵に壊され寂寥感が未だに消えないけれど。
かつて愛した人とも親しかった人とももう二度と会えないけれど。

それでも生きていける。
希望すら携えて、笑顔で、これからずっと、愛する人の隣で。









End.









初ノエセラ!アルカキルティのパラドクスエンディングから妄想でした。ぶっちゃけこのパラドクスエンディングからノエセラにときめき始めたようなものなので、最初はこのネタで行きたかったのです><書けて満足!
DLCとかオフィシャルブックとか他の方の解釈とか何一つ読んでなくて、本当に自分の解釈だけで書いているので、「これ違くね?」みたいなものが多発しそうな13関連ですが。いや欲しいんだけども!部屋に置くとこない(掃除をしなさい) この話関連でまた色々妄想したいなーとか思っております^^ノエセラー!!笑
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