きっと来る、手繰り寄せてやろうぜ。

チイは、いつもそう言ってくれたよね。

・・・覚えてる?













愛しい温もりと眠る













久しぶりに、夢を見た。
ここの所は体も心もボロボロになる位に仕事に精を出していたから、夢を見る暇もなかったのに。
きっとこの人のせいだ、と、リュックは自分の頭の下にある腕の持ち主をまじまじと至近距離で見ながら考えた。

どの位眠っただろう。時計を覗こうと少しだけ身体を持ち上げたのだが、突然身体を押さえつけられ、また腕の上に逆戻りした。


「痛っ」


強か打ち付けられた肩が悲鳴を上げたけれど、驚きの方が勝っていたので言葉が口をついただけだったと言ってもよかった。
起きているのだろうか?
でも、聞こえてくるのは静かな寝息だけ。時折いびきのように寝息が音を立て、彼が自分以上に疲れているのかも知れない、と感じさせられた。
きっと、腕にあった負荷が突然なくなったから違和感を覚えたのだろう。苦笑いだけ残し、また腕の上に大人しく収まった。

そういえば、安心して眠れる日々なんて、あの頃にはなかったな。
毎晩毎晩、怯えていたな、・・・シンに。

そんな事を思ったのは、勿論先程見た夢のせい。









「・・・ね、一緒に、寝ようよ」
「・・・」


アルベドのホームが、ベベルに襲われた次の日の夜だった。
生き残ったのが誰かもわからない位、皆散り散りになってしまった。家族と離ればなれにならなかっただけ、彼女は他のアルベドよりも運が良かった。

おまけにこの幼馴染みも一緒で、だからまだ彼女は自己を保っていられた。


「・・・シドのとこ、いろよ。危ないから・・・」
「・・・」
「リュック」
「・・・・・・」
「・・・はぁ」


包帯すら、なかった。傷口が深い者に手当をしてやりたくても物資が足りなさすぎて、折角一命を取り留めたにも関わらず、時間の問題と思われる者も少なからず存在した。
こんな時、アルベドの服装は不便だ。引きちぎった布を宛ってやる事も満足にできず、泣いても泣ききれない。


「ほら・・・隣、来い」


頼りなげに足を動かし、彼の隣に腰を下ろした。
肌寒い場所だったので、彼は隣で震える少女の細い肩をしっかりと抱き締めた。暖を取らせなければ、取らなければ、まだ幼い弱い自分達はそのまま死んでしまうだろうとさえ、感じられた。

長い、長い沈黙が続いた。
しばらく何も話す気がしなくて口を閉ざしたまま彼に凭れていた。このまま眠れたらどんなにかいいか。でも興奮しきった精神は休まる事を知らず、微かな風の音すら鮮明に聞こえる程だった。
温かいのが嬉しくて、悔しかった。今夜はこの温かさが憎い。


「何もかも、悪いのはシンだ」


不意に頭の上から聞こえてきたのは、呟くような声。
まだ声変わりしきれていないけれど、今日一日ですっかり憔悴してしまっていた。重みのある声に、言葉に、彼女は意識がはっきりするのを感じた。


「シンとベベルは、グルなの?」
「さあ、知らねぇけど・・・人の心が歪んじまうのは、いい奴も悪人も皆全部ひっくるめて不幸にしちまう存在があるからだ。・・・シンだ」
「・・・」


こじつけがましい事甚だしい理論だった。けれどシンはそれだけ恐ろしいもの、ベベルよりも恐ろしい最恐の存在。
今宵は寝付けそうにもないけれど、今までだって充分に熟睡できた事なんてなかった。あれがいるからだ。
皆そうだ。皆、今は殺してやりたい位に憎いベベルの兵でさえ、今頃はシンへの恐怖で身を震わせながら眠る。


「・・・ナギ節、来るかな」
「来るよ」


何度目とも知れない、この会話。
彼らは時折この会話を繰り返した。その度同じ台詞を、心から言う。


「きっと来る、手繰り寄せてやろうぜ。・・・俺達の手で」
「・・・そだね、きっと、できる」
「スピラに生きる奴全部、・・・アルベドも、召還士も、・・・ベベルの奴等も、もうこれ以上、死なせたくない」
「・・・うん」


根拠のない子どものただの願いだという事は、ちゃんとわかっていた。
それでもこの会話を繰り返す度に、彼女は心に少しの平穏を持つ事ができた。









(うちらの力じゃなかったけどさ・・・ちゃんと来たね、ナギ節)


嬉しかった、この温かさを、幸せと感じられる事が。
死んでしまった人達の分も、この温かさを幸せと感じていたかった。

未だ眠る彼は、目の下にうっすらと隈を作っていたけれど、それは恐怖で眠れないからでは決してなかった。


「・・・ギップル」
「何」
「おわあっ!?」


ふと呼んでみれば、当たり前のように返事をされてしまい、正直ひっくり返る程驚いてしまった。飛び退いたリュックだったけれど、寸での所でベッドから転げ落ちずに済んだ。


「あ、悪趣味〜」
「は?」
「起きてんなら早く目ぇ開ければいいのにさぁ〜!」
「だってお前、忙しそうだったから」
「いそがし・・・?」
「なんつーの、百面相?」
「〜〜〜もー、ギップルのばかっ!」


ばか、と言いながら、そのまま再び愛しい温みに抱きついた。
まるで予期していたかのようにすっぽりと抱き留められ、そのまま布団に転がった。

温かい。


「好き」
「・・・」
「えへへ」
「・・・ぁー」
「ん?」
「勃ちそう」
「・・・!!!サイテー!!!」
「嘘、嘘だから!手榴弾はやめろ、吹っ飛ぶ!」


まあ、シンよりは全然恐くないのだけれど、ね。














End.














初ギプリュ・・・vシンの事書きたいのかベベルに襲撃された事書きたいのかあやふやになってしまいましたが、無理矢理ナギ節に繋げ・・・(笑)
でもホント、シンがいる時のアルベドは大変だったよね・・・ナギ節来てひとまずよかったね・・・と。
あ、時間軸は一応、ヴェグナガンも壊した後です。
20080508
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