「こちら、アニキー・・・、カモメ団、カモメ団、応答せよぉ〜」
「へ〜い」
「へ〜い」
「声が、ちいさあぁ〜い・・・」
「へぇ〜い」
「へぇ〜い」
「元気が、ないぞぉ・・・」
「だぁってさぁ・・・」


ぐったりとその三人が倒れ伏すのは、カモメ団が誇る飛空艇・セルシウスのブリッジ。
最近はろくに掃除をしていない(マスターとダーリンが揃って休暇を取り、旅行に行ってしまっているからだ)ため、少しばかり埃がたまっていて、汚い床だ。

しかし力なくぐったりと倒れる三人には、あまり関係のない事だった。
何故なら。


「なぁ〜んで今日に限って、仕事が一つも入ってないのさぁ・・・」
「そんなの、俺が、知りたい!」
「はぁ・・・カモメ団、どうする?」









クロスホリデー









「どんなちっちゃい仕事でもいいからさぁー、持ってきてよダチぃ!」
「俺かよ!じゃあこんなのはどうだ、リンのとこの店の床掃除」
「そんな地味なの、やだ!」
「どんなのでもいいって言ったのはリュックだろうが」
「うるっさい!」


苛々するリュックと、そのリュックに八つ当たりされるダチとの会話の隣で、残りのリーダーは奇妙な動きをしながら何事か考え事をしていた。
そして突然ぴょーん!と垂直跳びをしたかと思うと、こう大きな声で提案した。


「ルカに行くのはどうだ!?」
「へ?」
「ルカぁ?」


眉根を思い切り寄せ、訝しげにアニキを見つめると、注目されて照れたらしいアニキはぐにゃぐにゃ動きながら何とか考えを伝えようとしている。
とうの昔に慣れているリュックやダチだからいいものの、これをパイン辺りが見たら跳び蹴りを食らうかも知れない・なんてことをリュックは頭の遠くの方で考えたが、忘れる事にした。


「だっかっら、ルカにはたくさん人がいるのだ!故に!トラブルが起こったり人手が必要になったりする機会が多い!ので!ルカに行けば仕事があるかもしれない!ということだ!」
「おおー!」
「アニキにしてはまともじゃん!あたし、遊びたい一心でそんなこと言い出したのかと思ったよ」
「ぎくっ」
「それもあるんかい!」


元々奔放だったカモメ団も、良心であったユウナ、冷静であったパイン、頭脳であったシンラを欠いてしまったことにより、ますます奔放さが増してしまったようだ。
故に大して名案とも言えない、しかし的を射ているとも言えるアニキの案に従い、一同ルカへ向かうことになった。

いざ鎌倉!(ルカ)









そうして降り立った、ルカの防波堤で。


「あれっ、お前ら!」


そこでたまたま、本当にたまたま、ギップルと数名のマキナ派の方々に遭遇したのだった。


「何でこんなとこにいんのさ?」
「たまには息抜きも必要ってな、シドの娘!」
「リュックだっつーの!」
「ぬうん、ギップル・・・!」
「お、よおアニキ!相変わらず素敵なモヒカンだな!」
「バカにしてるとしか、思えん!」
「まあそのコメントはなぁ・・・」
「そお?」


喋り出すと止まらない、それがアルベド族の定め。
潮風吹きすさぶ中軽く一時間は話し倒し、女性陣の髪の毛がパリパリとし出して文句が出た頃、カフェに場所が移動されたのだった。




話に寄れば、ギップル始めマキナ派数人は、本当に息抜きに来たらしかった。

そもそもビーカネル島で、それまで見た事のない遺跡が見つかったらしく、スピラの歴史に関わるかも知れないということでマキナ派も協力し連日調査をしていたらしい。
しかし砂嵐が重なったり猛暑が続いたり調査がなかなか進まなかったりで皆疲労困憊となり、結局ローテーションできちんと休暇を取ることに取り決めたらしい。


「そんな根詰めて作業しても埒があかないっつか、手に負えないくらいのもんでさ。長期戦でやってこうってことになったんだ」
「そんならカモメ団にも声かけてくれればよかったのにー!」
「ああ、じゃあ次から手伝ってもらうかな」
「待て!リーダーの俺が、決めることだ!」
「だめなのか?」
「だめなんてことは、なーい!」
「じゃあ最初から聞く事ないだろうが」
「ダチ、はっきり言い過ぎ」


今日ルカに遊びに来たマキナ派はギップルを含め五人で、うち一人が女性だった。
その女性は何となくリュックの気持ちに気が付いているらしく、今も気を回してリュックとギップルとを近い椅子に座らせてやろうとしたのだが、何かを気が付いたか若しくは天然でアニキが邪魔したため、断念した。
しかし隙あらば二人きりにさせてやろうと目論んでいる、いい人なんだかお節介なんだか微妙な人であったりする。

それはさておき。
二組とも朝からルカに来て、防波堤で少なからず話し続けたとはいえ、まだ午前中であった。
しかしあろうことか話が盛り上がりだした一派は、酒を注文しだした。
あまり乗り気でないリュックら数人をさておき、アニキらはノリノリであった。
店も店で、さすがはルカに一角を構えていると言うべきか、何の抵抗も見せず酒を振る舞ってくれてしまった。
故にここに、突然の酒盛りが始まってしまったわけである、が。


「やだやだ、あたしはパスだかんね!昼間っからお酒とか、ない!」


一派の中でも最も年若かった(とはいえ同世代ではあるが)リュックは抵抗があったらしく、そう言うなりカフェを抜け出してしまった。

そこで反応したのが例のマキナ派の女性である。
ここでさりげなくギップルをけしかければ二人きりにしてやれるチャンスである。


(うふふ・・・キューピッド作戦、開始よ!)


なんて、心の中で決心したのも束の間。


「あれっ、ギップルは!?」


いつの間にか、本当にいつの間にか。
その話題のギップルが、姿を消してしまっていた。
その他は雰囲気も手伝い、既に楽しいほろ酔い気分となっている。


「もー・・・空気読んでよね、ギップルってば」


はあ・と溜息を吐き、しかし彼女も久しぶりに再会にテンションを上げていた一人だったので、五分後にはその楽しい酒盛りの中に入ってしまっていた。









「はー、どうすっかなぁ・・・」


勢い出てきたはいいが、この後のことは全く考えていなかった。
一人で休日を過ごすことほど寂しいことはない。
故に少し格好が悪いが、酒の場に戻り入れてもらおうかとも考えた。
しかしそれでは何となく、プライドが傷つくというものである。


「シアターにでも行ってみようかなぁ」
「一人でか?」
「わっ」


急に上から降ってきた言葉に、リュックは思わず身構えた。
しかしその声は、聞き慣れた彼の声であったため、一瞬にして期待に胸を膨らませてしまった。


「な、何で・・・?」
「そりゃあ、女の子が一人街に飛び出してっちまったら、追いかけるだろ?シドの娘」
「ばっ、もう・・・あんがと」
「ふふん」


少しばかり大人の余裕を含ませて向けられたギップルの笑顔に、リュックは閉口してしまった。

可愛らしいお礼の一言でも言いたかったけれど、そうもできなかった。
突然訪れた二人きりの瞬間と。
あの場を捨てて自分を追いかけてきてくれた彼の瞬時の決断と。
先ほどの、笑顔。


(・・・何か、アッツイ)


とどのつまり、嬉しすぎて言葉が出てこなかったのだ。


「おい、何か顔赤くね?風邪でもひいたか?」
「違うっつの!」
「ふーん?違うならいいけど。・・・なあ、ルカに新しくできたアトラクション知ってるか?」
「へ?スフィアブレイクじゃなくて?」
「違う違う!チョコボレース」
「え〜、何それ!」


ギップルが言ってきたチョコボレースとは、ルカに隣接するミヘン街道にチョコボが戻ってきたことを記念して、半ば便乗して担ぎ出された新アトラクションだった。
勿論というべきか、考案者はリンらしいのだが。

もしここがナギ平原でもあれば、チョコボが走っていく様を狼レースのように生で見られるのであろうが、ここは既にごちゃごちゃと建物が多く建っているルカである。
故に、ミヘン街道寄りに作られたレース場をモニター越しに見るシステムを取っているらしい。


「どうだ?面白そうだろ」
「うん!あたしナギのレースも大好きだもん!」
「よし、それなら勝負しようぜ。軽く勝利してやる」
「なっまいき〜!リュックちゃんの腕前甘く見ないでよ!」


というわけでここに、一騎打ちが行われる事になった。


ピ ピ ピ   ポーン!


「いけっ、5番〜!」
「抜かせ!抜かせ!」
「ああぁ〜!!!」
「おっしゃ、きたぁぁぁ!!!」


なかなかよいデッドヒートを繰り広げたようだが、今日のところは、ギップルの勝利であった。
レースに熱が入りすぎたらしい二人は、リュックについては悔しさで床に膝をつきくっと唇を歪め、ギップルに至っては前の椅子に足をかけガッツポーズを決めていた。


「もー、たまたまだもん!」
「敗者の言い訳は見苦しいな・・・」


きっと凄みを利かせて見上げてみせたところで、見下す勝者の目線には勝てないらしく、リュックはまた「くっ」と俯いてしまった。
その様を面白そうに眺めたギップルは、おもむろに腰を下ろし、リュックの肩をぽんと軽く叩いた。


「さて、罰ゲームだ」
「はあ!?聞いてないし!」


飄々とそんなことを言ってくるものだから、悔しさも吹き飛んでしまった。
代わりに沸いてきた驚きのまま顔を上げれば存外近かった顔に更にまた驚き、何も言えなくなってしまった。


「言うの忘れてた」
「〜〜〜んもう、何させたいのさ!」


こうなれば、やけだ。
まあ罰ゲームのない勝負もつまらないというもの、リュックは受け入れることにした。

すると、目の前の彼はまた、にっこりと笑った。


「今夜、俺に付き合いな」
「へっ?」


何を、言っているのやら?
そんな風に目をぱちくりさせれば、それはそれはもう、面白可笑しそうなギップルの顔。

からかっているのだろうか、そんな考えに至り文句を言おうとしたが、さっと唇を覆われた。
もがもがとその手を放そうと抵抗をしてみても、所詮男の力には適わない。
故に仕方なく自分の手を放そうとした瞬間、ギップルはそっと耳元で囁いた。


「勿論アニキたちは抜きで、な」


真っ赤になったリュックちゃんの、それはそれは可愛らしいこと。









「結局、何、徹夜の仕事ってことぉ・・・?」


不満げなリュックの小さな悲鳴が、その夜ジョゼの寺院に低く木霊した。

現在二人肩を並べてしていることといえば、例の砂漠の遺跡の件とは別の、細かいマキナ作り。
どうやらマキナ派の最新の技術らしいのだが、そんなこと今のリュックには正直、しったこっちゃなかった。


「まあまあ、別に明日の朝にはカモメ団に要請しようと思ってたしさ」
「アニキたちはぁ?」
「あんなべろんべろん、使えるわけねーじゃん」
「・・・確かに」
「明日には砂漠で働いてもらうさ」


(確かにあたしの想像もちょっと突飛だったけど!でも、純情な女の子の期待を、こんな風に裏切っていいわけ!?んもー、こいつがもてるとか、信じらんない!)


「おやぁ?リュックちゃんは何か、別の期待でもしてたのかな?」
「なっ、何の話!?」
「いいんだぜ別に、そういう話でも」
「ばっ、ばか!そういう冗談は」
「う・そ」
「〜〜〜んもー、あんたは!ホントに!ばか!あんぽんたん!」
「ははは」


そんな感じで、カモメ団とマキナ派(一部)の休日は幕を閉じたのであった。









おわり









そんな、ありがち、オチ!笑
ラブなオチも考えましたが、この話が全体的にアホな感じだったので、最後までアホな感じにしてみました・・・笑
つづきものがシリアスなので、少しでも息抜きになれば幸いな感じです。
20090710
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