一緒にいる ことと 君が笑っている こと。

ハカリにかけるとしたら、・・・俺は。









アナザーサイド・オブ・マイン









きっかけなんて、ほんの些細なことだった。
ただお前のことが、好きだってことに気が付いて。
今更だなって思いと、やっと気づけたかって満足の狭間で、この恋情を静かに燃やし続けた。

それにしても、今までとは違う恋の感覚に、正直困惑した。
俺は、今までこんなにも一人の女の顔ばかり思い出していただろうか。
今何をしているだろうかと、いつの間にか思考を飛ばしてしまうことが?

もしかしたら実際、気が付くのが遅かっただけで、相当昔から俺はお前に惚れていたのかも知れない。
・・・なんて、恥ずかしすぎることも幾度となく考えてしまってもいた。

その最中、久しぶりに会ったお前の隣には、知らない男がいた。


「友達だよ!」


元気に、楽しそうに、嬉しそうに、・・・頬を染めて笑うこの顔が、初めて憎らしかった。
いつだって、この思いが生まれるずっと前からきっと、お前の笑顔は活力以外の何ものにもならなかったのに。

ああそうかと気が付いたのは、思わずこいつの細い腕を力一杯掴んでしまった瞬間。
驚いた、困ったような顔を見て、失敗したと思うと同時に悟った。
今までは俺の作った笑顔だったから嬉しかったんだ。
他人が、ましてや、知らない男が与えたこいつの笑顔なんて、吐き気すら。

好きなんだ、お前のことが。
俺が、笑わしてやりたいんだよ。









でも、気がついたきっかけがまずかった。
その後あいつは、・・・リュックは、このジョゼに姿を見せない。
バカみたいに時々入る、通信スフィアすら無反応で。
大好きなマキナが霞むほど、気が滅入り始めていた。


(・・・彼氏だった、のか?)


あの日のツーショットが目蓋にちらついた。
けれど、あのリュックの顔ばかりがリアルで、男の顔は思い出せなかった。


(友達ならまだ・・・いい)


それならまだ、奪える。

・・・奪う?


(何を?)


俺が欲しいのは、あいつの笑った顔。
あの、太陽のエネルギーを奪い尽くして輝いているような、あの笑顔。
でもきっと「奪った」としたら、それは消えてしまうのだろう。


(・・・バカみてぇ)


まだまともな理性があってよかった。
笑っていないお前なんて欲しくないから。
そうでなければあいつに価値がないとは言わない。
そうでなくて、そうでなければ、あいつがあいつではなくなってしまうからだ。


(俺の隣で笑えないあいつなら、−−−・・・)


それならば、諦める?
あの見知らぬ男の隣で笑うあいつを、祝福する?
俺にもいつものように笑いかけるだろう、でもその影で、知らないところで、俺のまだ知らない顔を見せるあいつを、許せる?

答えは笑えるくらい、否だ。


(だって欲しい、欲しいんだ・・・ただひたすらに)


例えばふとしたことで、お前の細腕を力一杯握りしめてしまうくらいに。


(矛盾してるな・・・いや、素直とでも言うのか)


自分の欲望に忠実。
それゆえに起こる、解決が難しそうな矛盾。
笑わせたいし、傍に置きたい。
あの見知らぬ男がお前の最愛の人間だとしても、引き裂いて。
例えそれが、お前を傷つけることになったとしても。
・・・。


(・・・好きなんだ)


こんなにもエゴイスティックに。









「悩み事?」


ある日不意にひょっこりとジョゼに顔を見せた彼女は、あっけらかんとそう言ってみせた。
多少居心地の悪そうな素振りをするかと思えば全くそんなことはなくて、どうやらカモメ団の仕事が忙しく、知り合いと連絡を取る暇もなければジョゼを訪れる暇もなかったらしい。
つまり、あの日俺がこいつの腕を肌が更に白むくらいに掴んだことも、そのまま部屋に閉じこもり、あの知らない男に挨拶すらろくにしなかったことも、気にしていないと。

俺はといえばそれはもう、安心するなんてことはできず、複雑な思いに駆られてしまった。

腹が立ったと言ってしまうと、ずいぶん自分勝手な男だと思われてしまうだろう。
でもこいつが姿を見せないここ数日、いや一ヶ月近く、もうずっと長い間、頭の中をこいつに支配されていたのだ。
挙げ句こんなバカみたいな言葉をかけられたら、どうにも苛々してしまう。

・・・逆恨みだなんて、しかも当たる相手として一番最悪だなんて、どこかでは気がついているのだけれど。


「んなの、お前が、・・・」


だからうっかり、口を滑らせそうになった。
さすがにそんな、「つい言ってしまった」なんて間抜けで終わりにはしたくなくて、寸でのところで黙ったけれど。
でも相当に不自然なことになってしまい、細かいことをあまり気にしないこの女ですら、小首をかしげてしまっていた。
困った、俺は、器用な男の筈なのに。


「あたし?あたしのことで悩んでるの?」


眉が、ハの字だ。
心から困惑していて、いっそアホのよう。
多分・・・俺も、同じ顔。


「言ってよ、不満でもあんの?ねえってばぁ!」


何とも言えず、押し黙るしかできない。
舌打ちしそうになる唇を、せめてしっかりと噛み締めた。


「ギップル!はっきり言ってよ、気持ち悪いじゃん!」


こいつはといえば段々感情的な物言いになってきて、しかし反比例するように俺の方は若干冷静さを取り戻した。

そうだ。
こいつは確かに細かいことをあまり気にしないけれど、その分気になり出すと物凄くしつこい、それこそ1ミリの不明な点も納得のいかない点も残さないという徹底的なやつだった。


「うるっせーな、関係ねーよ」


だからこういう言葉はまさに火に油。
つい言ってしまったのは、いわゆる売り言葉に買い言葉というやつだ。


「何さーっ!人がこぉんなに心配してやってるってのに、もう!バカ!知らない!」


とうとうお冠だった。
多分このまま愛想を尽かし、帰って行くはず。
その方がむしろいい、その方が、まだ安心する。

しかしこいつが怒ったら怒ったで、さっきのアホ面を見せられたときよりも一層苛々し、また余計悲しくなった。
悔しくなった、漠然とした何かに対して。

多くの負の感情に、ここ最近では一番酷く飲み込まれた。
何故?


「・・・リュック」
「え」


何だかんだと言ってやはり、この少女を傷つけたくないから?
どんな理由であれ、笑っていてほしいから?
あるいは・・・自分を見なくなってしまうことだけは、何よりも避けたいから?


「俺」
「?」
「・・・、・・・いや」
「??」


たった一人の女のことでこんなにも情けなくなる自分を、俺は知らなかった。

言ってしまえば物凄く楽だろう。
状況も大分すっきりするだろう。
彼女と俺との関係も、より明確で分かりやすいものとなるだろう。

でもそれに関わるリスクの高さを、可能性を思うと、どうしても言葉が出ない。
行動もできない。
・・・怖くて。

もう本当に、笑ってしまいそう。
俺は、誰だ?


「・・・ギップルぅ?ホントにどーしたの?」


実は体調悪かったりするんじゃないの?などと、いつもの元気っぷりはどこへやら、献身的とも言えるくらいに心配をしてくれる彼女に、今のらしくなさすぎる自分がすぐにでも見透かされそうな気がした。


「・・・」
「ギップル・・・?」


その時、彼女とばっちり目が合った。
そしてその瞬間、今日初めてこいつと目があったのだということを自覚した。
すると不思議なことに、それまで身体の隅々までも支配していた負の感情が一気に力をなくして。
何故か、可笑しくなってしまった。


「は、ははは・・・!」
「???ど、どーしたの?」


全く、性に合わないことをすると、疲れるものだ。


「リュック」
「!?は、な、何!?」


気にしすぎるのも、遠慮をするのも、全く以て俺らしくない。
もういっそ気持ち悪いくらい、別人だった気がする。

変な螺旋に深入り前に気がつけてよかった。
あるいは既に深入りしてしまっていたかも知れないけれど、この女の目の色で俺は帰ってこられた。
何にせよ、俺が情けなかったことに変わりなく、またこいつに惚れている事実を再確認したことにも変わりなく。


「俺、お前のこと大好きだわ」
「・・・えっ?」


にっこりと笑って、その一言を案外あっさりと言ってしまったのは、若しくは言えたのは、やっぱりこいつのせいだ。









後日談、として。

例の、俺を螺旋の渦に陥れそうになったきっかけを作った「知らない男」は、どうやらあの大召還士様の恋人様だったらしい。
ということは、二年前にユウナ様のガードを務めた、「ザナルカンドから来たブリッツ選手」か。


「よろしくッス!」
「・・・ああ」


にこにこと差し出されたこいつの掌を、すぐに握り返すことができなかったのは、第一印象のせいだろう。
でもこれが意外と気の合うやつだったりしたから、世の中ってのはわからねえもんだ。

例えば、俺が恋煩いでちょっと変になったのも、世の中わからねえってのの一つってことで・・・。


(恥ずかしいから、もう二度と思い出したくないけどな!)









End.









煩うギップルでした・・・(苦笑)ちょっと別人・・・。
因みにこの話のタイトル案として、「ナイストゥミーチュー・俺」とか考えました。全くアホすぎるので没りましたが、面白いのでここでご紹介(笑)
20080731
inserted by FC2 system