「気になるか」
「へっ?」
「昔のことさ」

たわいない話をしていた中で、不意にそんな話題になった。
そんな話題とは、お互いの過去のこと。
過去と言っても1・2年の空白時間以外はお互いのことはよく知っていたので、当然その1・2年の間のことである。

聞きたがって身を乗り出してくるかな、それとも拗ねたりする?
そんな予想をしながら、冒頭の疑問を投げかけたのだった。
しかし目の前の俺にとって世界一可愛い生き物は、きょとんとした表情の後、含み笑いが溢れたような笑顔をした。

「んーん、別に?」









talk'bot you&me









「それよりさぁ、どっか遊び行かない?ゴロゴロしてるの飽きたぁ!」
「え、あ、あぁ・・・」

ブーブーと文句を言い出した彼女の言葉に間の抜けた言葉を返してしまったのは、予想と反する答えが返ってきてしまったからだ。
一瞬フリーズした身体を叱咤し、とりあえずの返事をした、のだが、まだ脳味噌はその前のことを考えている。
どうしてこんな返事が返ってきた?

「ガガゼト行きたいなぁ、温泉!暑いけど、暑いからこその温泉みたいな?避暑地にもなるしね!あっ、避暑っていうかあそこはもう一年中極寒地だけどさ!」

暑いよりましー!と元気よくガッツポーズしながら勝手に行き先を決定したらしい彼女は、俺の返事も待たずに着替えやらタオルやら準備を始めた。
が、とりあえずストップしてもらわないと、このまま湯に浸かったら簡単に上せてしまうだろう。

「待て、待て」
「?」
「さっきの」
「さっきの?」

本気で疑問符を浮かべながら小首を傾げる態度は、どうやら信じがたいが本当に俺が何を言っているのかわからないようで、溜息も出ない心地だった。

「さっきの話、終わり?」
「んーと・・・?あ、これから行くとこ?温泉イヤ?」
「いや、違う。温泉は別にいい。違くて、その前の話!俺の昔のこと気になるかって話!」
「だからぁ、どーでもいいって」

ぐさり。
何という言葉を繰り出してきたのだろう、この小娘は!
仮にも恋人に向かって、恋人が俺のこと気になるかい・なんて愉快げに尋ねてきたら、はにかみながら反応するのが相場じゃないのか!

・・・というのは、ただの俺の予測だったのだけれど。
それにしたって、それはないだろう!

「さっほら、ギップルも準備して・・・」
「俺は行かねぇ」
「え?」

何だか拗ねたくなってしまったのも、わかっていただけるというものだろう。

「俺の話より温泉が大好きなら、どうぞ一人で行ってくればいいさ」
「何言ってんの!?」
「そういうことだろ!」

でも怒鳴ってしまってから、簡単に腹を立ててしまったことに後悔した。
リュックが萎縮したように肩を縮こませてしまったから。
怒鳴った瞬間、小さい子どもみたいに身体を震わせたから。

別に腹を立てた訳では決してなくて、ちょっとした弾みのようなものだった。
しかしそれにしても女に対して怒鳴るなんて、格好が悪すぎるにもほどがある。
それによりによってその相手はこのリュックだ。

「あ・・・、ごめん、言い過ぎた」
「・・・」
「いやさ、もっと食いつくかと思ったら意外とどうでもよかったみたいだから、びっくりしたっつうか、そんだけ!ゴメンな、リュ」
「気になるよ!」

え。
慌てて弁解をして、俯いてしまった彼女の肩を抱こうとしたら、身をよじって逃げられた。
そのまま背中を向けられてしまって動揺したけれど、そのまま発せられた彼女の言葉にまたフリーズしてしまった。

「気になるに決まってんじゃん!何してたかとか、アカギの訓練ってどうだったとか、パインたちとどう知り合ったのかとか!ど、どんな人と付き合ってたのか、とかっ・・・」
「リュック・・・」

その瞬間口から出たのは、随分間抜けな呼び声だった。
自分の声かと惑うくらい弱々しかったから、早まったことをしてしまった自分に対して今後悔して、悲しくて、また彼女の真意に対して喜んでしまっていることがわかった。

「ごめんな」
「・・・んや、あたしこそ、ムキになって、ごめん・・・」

そっと抱きしめたら抵抗されなかったから、そのまま彼女の金糸に顔を埋めた。
女の甘い匂いが全身に行き渡って、掌からも頬からもあらゆるところから彼女の体温が感染して、幸せに包まれた。
腕の中の彼女が過去に嫉妬したのが可愛くて仕様がなかった、というのは、少々趣味が悪いかもしれないが、本当なのだから仕方がない。

「やっぱさ、温泉また今度にしようぜ」
「何で?・・・怒った?」
「ばか、違う。もっかいベッドにゴロゴロし直してさ、俺の話聞いて」
「・・・どうしても?」
「お前には全部知ってほしい。会わなかった何年かのことも、一緒にいたガキの頃の気持ちも、さ。何、期待するほど波瀾万丈ではなかったぜ?ていうか、お前だってユウナ様のガードしたりさ、色々あったじゃん。聞かせてくれよ」
「・・・」
「まあ、あんま聞きたくない類の話もあるかもしれないけどよ」
「・・・」
「でも、今の俺は、お前に人生これほどないくらい、初めてってくらいの大きさで惚れてるから」
「・・・・・・・・・」

そろそろと背中に回されてきた彼女の腕が、最後の言葉を聞いた瞬間ぎゅっと力が篭もった。
別に決めようと思って言った言葉ではなくて飽くまで本心だったけれど、それでも思うところが彼女にあったのだとしたら、儲けもの。

「それだったら、聞けるか?」

なるべく優しい声音で、胸にすっぽりと納まってしまった頭に向かって訊いた。
ふわふわと揺れる金糸を撫でながら、もう震えなくなった小さな背中を支えながら、頬を金糸に埋めながら。

「聞く」

そうして漸く返ってきた言葉は、照れた彼女の笑顔付きで。
思わず抱きしめ返してしまって、今度はきつい苦しいと文句を言われた。

その反応に笑いながらあっという間に彼女の軽い身体を抱き上げて、ベッドに移動。
笑いながらもつれるように布団に転がって、そのまま唇を重ねた。

「話するのは口と身体、どっちがいい?」
「もー、バカなこと言わないで!」

顔を真っ赤にしながら、それでも首に回した腕を外さない可愛い彼女の額にもう一度唇を落として、そして。
その後は、ご想像にお任せするとしますか。





俺だって彼女の話を聞くのは、少しだけ勇気のいることだったんだ。
でも、それでもお前が今俺のことをこれ以上ないくらい愛してくれてるってわかるから、聞けるし聞きたいんだ。

きっとどんな話でも、楽しいからさ。









おわり









うわおー、甘い、かゆい!笑 ギプリュできてる設定でお送りさせて頂きました・・・!これ、拙宅的にはレアな設定なもので、大変むずがゆいのを我慢しながら書きました^^;;だがしかし面白かったけども!
お互い意地張っちゃったためにちょびっと喧嘩して、でもやっぱり素直なのですぐに仲直りvみたいな、お話でしたー。
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