ほむら、ひとつ

番外編 〜肩身の狭い甲斐甲斐しい夫について 1









病院探しは難なく終わった。
というよりも、初診で世話になったルカの病院に引き継いで世話になることにしたため、探す手間が省けたのだ。
そこはしかし病院というよりも診療所に近かったので、周囲は専門のクリニックに移ることを進めたが、リュックがそこの先生と仲良くなってしまったため、そうなったのだった。

しかし最後まで渋ったのは他ならぬギップルである。
常の仕事場であるジョゼから大分離れており、スピード重視で改造したホバーを以てして近道をしても、診療所に辿り着くまで半日以上かかるからである。

「そこじゃもしもってときに駆けつけらんねーだろ!」

それまで冷静に話し合いを重ねてきた二人であったが、ギップルが遂に半泣きで説得し出したのは交渉から一週間後、もう必死である。
因みに夜半すぎ、ジョゼにあるギップルの私室で二人きりのときにそんな状況になったので、一応そ の失態(半泣き)は二人きりの秘密である。

何故そこまで懸命に近くに置きたがるのかといえば、言わずもがなこの赤子を授かった経過が多分に影響している。
彼は単に、しかし切実に、数ヶ月の間身重の妻(籍を入れたのはつい最近だが)に一人で心労を負わせてしまっていたことに責任を感じていた。
それは周りが思わずそれほど気負わないでいいのではないかと言ってしまいそうになるほど、また当のリュックも別にそんなに気にしないでいいよ!と何度も言ってしまったほどである。
根が真面目らしいこの男だからこそ、責任感のある父親として仕事をしたいのである。

「でも今更だしさ〜」
「俺のためにも頼むって!」
「むー」

リュックはリュックで何故渋るのか。
別に今更ギップルに復讐してやろうとか睨んでいるわけでは決してなく、単にジョゼ付近には娯楽が殆どなく暇だからだ。
その点ルカならショッピングも映画も、娯楽に関してはこれ以上なく充実している。
病院の先生と仲がいいからという理由だって勿論正しいけれど、暇嫌いのリュックにしてみれば大切な理由だ。

「いや、でも、やだ!」

そして結局、リュックの我が通された。
その頑なさには、ギップルもぼっきり折れずにはいられなかったのだった。

ギップルがあの件で何よりも責任に重きを置く男になった一方で、リュックは能天気に拍車がかかった部分がある。
しかしそれもあの件で彼女が一生分悩み考えた結果であるとも言えるし、また母親としてかは定かではないが落ち着きが出てきたのも確かなので、まあ足して二で割ればこの二人、どっこいどっこいなのである。

そんなこんなで通院が始まった。
予定日が近づいてからは、飛空艇に揺られているのは母体によくなさそうだということから、落ち着いた家もないアルベド族であるため、早々に入院することになった。
入院・というと堅苦しい響きではあるが、単に診療所の一室を間借りして住まわせてもらっているのであった。

これもまたやはり、ギップルがジョゼの自分の今のところの住処に住めばいいと進めたのに、リュックは断った。
それは単に自分が近くにいたらギップルが仕事に集中できないだろうと気を遣っただけの結果であったのだけれど(何故ならその赤子を授かった場所がジョゼ寺院その場所なのだから)、それについてもギップルはやはり地味に凹んだのであった。

因みに家賃についてはシドが最近当てた商売の売上から出すと申し出たのだが、ギップルが全て自分が出すと頑として譲らなかった為、そういうことになった。
ただしその診療所にたまたまアルベド族の人間がいたため、だいぶ割引してもらえたりもしているのだが。





「よお、具合はどうだ?」
「ん、元気みたいだよ」
「赤ん坊もだけど、今俺が聞いたのはお前」
「ああ、うん、元気!」

ギップルは週一ほどのペースでリュックの元を訪れた。
本当は毎日でも顔を出したいようではあったが、実際ここのところの多忙さは異常であったので、週一で顔を出せているだけでも奇跡に近かったようだ。
その原因としては、マキナ派としての活動もあったし、「派閥のリーダーと伝説のガードの一人が突然のできちゃった結婚!」という冠が世間の興味を引き、マスコミまで動き出してしまったためにその対応に終われているということもあった。

「全く、有名人はきついぜ」
「あはは」

呆れたように大袈裟に溜め息を吐いてみせたギップルは、そのくせ特に負担に思っていないようで、やはり元気そうだ。
どうやら諸々のことに忙殺されるようなことはないようで、適度に力を抜いているようだ。
若しくは一応まだ十代の彼にはこのくらいの負担は何でもないのかもしれない。
或いはこうして近い未来の家族に会いに来ることなどは負担になっていないだけなのか。
定かではないが、とりあえず元気である。

「なあリュック」
「ん?」

そんな“未来のお父さん”は、奥さんに尽くすことこそが自分の仕事であり、幸せであり、目下の生き甲斐のように感じていたけれど、一つだけ入院前から言い聞かせていたことがあった。
正確に言えば、他にも色々と言い聞かせてみたけれど悉く却下され、しかしそれでもこれだけはと粘り強く説き伏せ、遂にこれだけは認めてもらったという内容である。
果たして、その内容はといえば。

「俺がちゃんといるときにしてくれな」
「ん?」
「いや、いなくてもまあ、百歩譲って許す。許すけど、その前か最中には連絡は入れてくれ」
「あー、またその話?」
「重要なことだ!」

リュックが耳にタコができると嫌な顔を返すくらい、ギップルが一言一句同じ台詞を語ってしまうくらい、同じだが大事な話をまた今日も切々と語るのだった。

「産むときは俺を呼べよ!」
「はいはい」






「面白いッスね〜、リュックの旦那」
「ギップルさんなりに、色々と責任を感じて、色々と考えた結果みたいだけどね」

一転、ビサイド島はビサイド村。
これもまた新婚夫婦であるティーダとユウナが、夕食を囲みながら本日聞いてきたばかりの話で盛り上がっていた。

話はといえば勿論、件の夫婦の話。
診療所に引っ越したリュックが暇をしているだろうと、たくさんの土産を抱えて今日、遊びに行ったばかりなのだ。

「産まれるときはポンッと産まれちゃうわけなんだしさ、そんなに気負ってもしょうがないと思うんだけどな」
「それはそうだけど・・・でも、そうやって気にしてもらえてるのは嬉しいと思うな」
「リュックが?」
「うん」
「そっか〜」

もぐもぐ。
大好物のユウナ特製ハンバーグをたっぷりと咀嚼しながら、ティーダは頷いた。

「そういうもんなのかな?実際子どもいないからよくわかんないな」
「・・・」
「ん?ユウナ?」

もぐもぐ。
今度は突然黙りこくってしまった愛すべき妻を見る。
真っ赤になって必死にハンバーグを切る彼女は、ぶつぶつと何事かを言っている。

「もう、キミのそういうのって狙ってるの?からかってるの?」
「へ?」
「それとも私の勘違い・・・なの、かな、ああ、もう、何でもない!」

ばっくん!
常の彼女にはありえない位の勢いでハンバーグを口に納めたので、その見事な食べっぷりに思わず拍手を送った。
しかし、狙っているとは、からかっているとは、勘違いとは。

(あ)

「ユウナ」
「・・・なあに?」

優しく名前を呼んでやれば、恥ずかしそうな顔でこちらを恐る恐ると見てくれた。
その様子がまた可愛くて、ティーダはにん・と満面の笑みを浮かべた。

「俺たちも、そろそろ欲しいよな?」
「っ!」
「男の子ならみっちりブリッツ教えてやりたい。女の子ならユウナ、踊り教えてやってな」
「・・・ティーダ」
「ん」
「私も、賛成っす」

真っ赤になりながらも、賛同してくれたいじらしいユウナが愛しくて堪らなくなってしまったティーダは、頬を赤く染めながらばたばたと彼女の隣まで移動し、その勢いのままに抱きついた。

「よっしゃあ!気合い入った!」
「き、気合いって」
「リュックたちにゃ負けてらんないぞ〜」
「もう!ふふ、調子良いんだから」

むちゅ、押しつけるだけのキスをして、床に転がりながら二人は暫くはしゃいでいた。
このときは、よもやギップルに恨まれることになろうとは、全く予想だにしていなかったのだった。









つづく









お久しぶりのこのお話の、番外編を始めてみました^^とはいえ、相変わらず不定期になりそうですが;;
実は本編を書き終わってすぐに書きたかった話なのですが、脳内で完結してしまったのでまあいいかーとお蔵入りしていたのです。内容もだいぶギャグですし。でも今回、何となく形にしたくなったので、こうして表してみたのでした。
今回はだいぶティユウが出張りましたが!あまりつづきが気にならないように(ぇ)書きたいと思いますので、気長にお付き合いいただければと思います!
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