本日も、晴天なり。
スピラはルカ、眩しい青空が一面に広がっている。

「リューック!」
「んん?」

そんなルカの中でも一際広いここ、スタジアム広場に、誰もが一度は聞いたことがあるような声と名前がビリビリと響き渡った。

「わお、ティーダぁ!」
「元気だったかぁ!?」

重たくなってきたお腹を支えながら買い物袋を提げていたリュックの後ろから、ブンブンと手を振り回し快活な声をかけて走ってきたのは、嘗て共に世界を救った仲間であるティーダだった。









ほむら、ひとつ

番外編 〜肩身の狭い甲斐甲斐しい夫について 2









「どしたのどしたの?何でここに、あ!」
「そんなの勿論!今が絶好調シーズン中だからッスよ!」

手を取り合いきゃっきゃと擬音が聞こえてきそうな勢いで再会を喜び合った二人は、周りの目も気にせず大声で近況報告を始めた。
リュックは買い出し兼息抜き、ティーダは練習の合間を抜け出して、ユウナへの土産を探しに来たのである。
そして振り回していた手には小ぶりの箱が握られているので、もう目的は達成されたようだ。

「なんつーか・・・腹も立派になってきたなぁ」
「何かその言い方、セクハラ臭い!」

興味本位に腹をつついてくるティーダを避難しながら、しかしリュックは嬉しそうだ。
こうしてルカに母として安静に落ち着くまでは飛空挺を自由に乗り回し、東へ西へ縦横無尽に飛んでいたのである。
故にやれ誰それに会いたい、やれ何処其処に行きたい等と思いつけば、その瞬間ハンドルを握っていたのだ。
当然ティーダやユウナに会いたいと思えば、エンジンフル回転でビサイドまで吹っ飛ばしたものだ(ビサイドに行くと言えば、アニキもダチも総力を上げて手伝ってくれた)。

しかし今は歯痒い身、故にこうして知り合いに偶然出会えたり、わざわざ会いに来てくれたりすることはとても嬉しかったのだった。

「そろそろだよな?」
「そーだねぇ、予定日まではあと一週間だよ」
「うわ〜、楽しみだなあ!」

こうして自分のことのように喜んでくれるのもまた嬉しかった。
皆に祝福されて産まれてくる、この子の未来が明るいものと思わせてくれるから。

「あり、・・・」
「ん?どうしたッスか」

リュックは何かを言いかけ、しかし黙ってしまった。
まるで彼女だけ時間が止まってしまったかのような不自然さにティーダは訝しくなり、顔を覗きこむ。

「・・・は、」
「は?」
「破水・・・って、やつ?」
「はすい・・・って、えええええ!!」

元々はあまりそういった知識のないティーダであったが、リュックの話が出た折に、未来の勉強にとユウナとそうした会話をしたときに、何となく衝撃的だったので覚えていたのだ。
女の人って出産のときまず水が出るのか、凄いッス、なんて思ったのは、ついこの間。
それが出産の合図だと、ユウナが。

「あっ、合図ーーー!」

このときのティーダの声は、スピラ中・・・は、無理だったが、衝撃波のように少なくともルカ一帯には響き渡った。









「はいはい、ちょっと待ってねー」

ルールーはふえふえとぐずるイナミを抱き抱えながら、家の中に声をかけた。
暫く前に泣き出した娘に気がつき家の外に出、あやしながら寺院の方に行っていたのだ。
漸く収まったので戻る途中、家の中から通信スフィアの交信ノイズが聞こえてきたのだ。

丁度ワッカはブリッツの大会で留守にしていたし、よく遊びに来るユウナもたまたま村の子ども達を連れて港の方へ遊びに行っていたので、ルールーが出るしかない状況にあった。
イナミの相手をしていたために子どもを相手にするような言葉遣いになったが、本人は気がついていないようだ。

「はーい、お待たせ・・・って、あら」

そうして通信スフィアに応対してみると、画面の向こうには意外な人物がいた。

「珍しいわね、キマリ。何かあった?」

そう、スフィア画面には、もしかすると通信スフィアの使い方すら知らないのではないかと思わせる人物ナンバーワンにして、ロンゾ族の現長老、キマリが映っていたのだ。
さすがのルールーもどこか驚いたような表情であったが、かたや長老、かたや一児の母で、なんだかんだ何年も会えていなかったため、沸き上がる懐かしさの方が勝ったようだ。

「人を探している」

対してキマリはといえば、彼なりに懐かしさやら慣れないスフィア越しの会話への照れやら感じているのかも知れないが、やはり一見そうしたものを微塵も感じさせない雰囲気を纏っていた。
さすがロンゾの長、否むしろさすがキマリである。
まあそのようにしてその口から発せられたのは、これもやはり、意外な言葉で。

「人?」

ルールーも思わず聞き返してしまった。
しかしあまりにも相手が真面目な顔をしていたし(常にそういう顔の造りだが)、冗談を言うような雰囲気でもなかったので(これもまた常のことであるが)、愉快そうに口角を上げ、腕を組んだ。

「他ならぬキマリのお願いだもの、協力するわよ。誰?」
「リュックの夫」
「・・・え?」

どんな秘境の仙人だろうか、はたまたなかなか巡り会えない有名人だろうか。
一瞬で様々に想像を膨らませたのであるが、まさか。

「リュックの旦那って・・・あれでしょ、マキナ派の」
「ああ」
「そんなもの、ジョゼ寺院に大勢いるマキナ派に聞けばいいんじゃない?」
「いないらしい」
「あら、もう聞いてたのね・・・というより、聞いていいかしら」

何故あなたがリュックの旦那さんを探しているの?

まず浮かんだ疑問であったがとりあえず後回しにしていたルールーであったけれど、最早尋ねても支障ないだろう。
そうしてされた質問に、やはりいつものように堂々とキマリは返事した。









「悪かったな、急に来ちまって」
「それはいいけどさ、どういう風の吹き回しだい?」

ビーカネル島はホーム跡地。
着々と片付けが続けられていた甲斐もあり、日々埋もれていた遺品や生活用品、はたまた銅像だったり何かのレプリカだったらしい物体等、あらゆるものが発掘され続けていた。
思い出は心の中にと話すアルベド族も、いざ発掘すれば出てくるかも知れないと後押しされると、訪れずにはいられない者が多いらしい。
しかしすぐに活用できるようなパーツはあまりないので、それほど人員を割いて活動されてはいなかった。

とかくそのような場所に、何故彼はいるのか。

「そういえば嫁さんはもうすぐ予定日なんじゃないかい、ギップル」
「ああ、でもまだ日にちあるし。ちょっと探したいもんもあってさ」

ニカリといつものように笑うギップルの背後では、本日スピラほぼ全土に降り注いでいる太陽の光がキラキラと降り、砂を輝かせている。

同じ空の下、当の嫁が正に今、ティーダに担がれて病院に向かっていることを、彼はまだ知る由もないのだった。









つづく









番外編第2話、相変わらずティーダが出張ります。これからもっと出張ります(何の話これ)
(120713)
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