「ティーダぁ・・・喉乾いたー」 「飲み物ッスね!ほれ!」 ごくごく、ごっくん。むはー。 「ジンツー、どーだ?ひいてきた?」 「いや、ひいちゃ駄目でしょ、痛いよー」 「腹さする?」 「いやいやだいじょーぶ、あんがとー」 他称・リュックの旦那様となりつつあるティーダは、甲斐甲斐しくも初の出産に挑む仲間の身の回りの世話に勤しんでいる。 たまに様子を見に来る看護師にも、いい旦那だなぁという意味が篭もっていそうな大変温かい眼差しで見守られている。 何だかなぁと思っていたリュックも、やがて自分のことでいっぱいいっぱいになってしまっていたので、段々とどうでもよくなってしまった。 ほむら、ひとつ 番外編 〜肩身の狭い甲斐甲斐しい夫について 4 「どうティーダ、リュックの様子は?」 「痛そうッス!」 「あはは、だろうね」 ティーダが心配のあまり汗まみれのリュックの顔をタオルで拭いてやりながらじーっと見つめ、のめり込みそうになっていたところでユウナからスフィアで連絡があった。 何故未だに病院に来ないのか訊いてみると、人を探しているのだという。 「キマリから連絡があってね、ギップルさんを探してるらしいの」 「ギップル?そういや来ねえな・・・ていうか何でキマリが?」 依頼した張本人は、混乱と動揺のあまり自分が頼んだことを忘れてしまったらしい。 二人で首を傾げながら、まあよろしく頼むッス・了解っす・と声には出さず阿吽の呼吸で頷き合った。 「そういえば試合は大丈夫なの?」 「ああ、オーラカはそんな弱くねぇよ。さっきも連絡したし」 「そう・・・だけど、今リードされてるみたいだよ?」 「えぇ!」 驚いた勢いのままリモコンを掴み、テレビをつける。 すると落ち着いた妻の言うとおり、スフィア画面には0−2の文字が。 『いやー、オーラカも調子はいいんですがねぇ』 『そうですねぇ、今日はゴワーズも絶好調ですからねぇ』 『そこで絶対エースのティーダ選手がいないというのは痛いですねぇ』 『そうですねぇ、こんな大事な場面でどこに行っちゃったんでしょうかねぇ彼は』 『そうですねぇ』 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 噂のエースは顔面蒼白になる。 自分の責任、とまでは驕っているようなので思わないが、オーラカの一員としてあの場にいないのはまずい、とは痛烈に感じた。 画面に仲間達の表情が映される。 ワッカは励ますために笑みを浮かべているが、その眉間にはくっきりと皺が刻まれている。 他の皆も鼓舞し合っているが、やはり濃い皺が、眉間に。 「行きなよ」 「!」 ふと声をあげたのは大事な仲間。 やはり眉間に皺を刻み、笑っている。 「あたしならだいじょーぶ。母は強しってやつだから。それにそのうち、あのバカも来るでしょ」 「リュック・・・」 「ほれほれ、行った行った!会場でワッカ達が待ってるよ」 行け行け・と手で合図をされた。 汗だくの彼女にそこまで言われては、ティーダも覚悟を決めずにはいられなかった。 「・・・大丈夫、なんだな」 「うん」 「・・・・・・よし!」 ぐっと、ティーダも眉間に皺を刻んだ。 しかしこれは覚悟の証。 これから戦いに行く男の気合いの証だ。 最早大会会場から渇望されているだろう男はしかし、自分のバッグをガツッと掴むとタオルを取り出す。 ビサイド・オーラカのチームタオルに、ユウナが必勝を願ってこっそり刺繍した代物だ。 ユウナはばれないように刺繍をしておいたのだが、ティーダはたまたまその部分を見つけていた。 だから知っている、このタオルがあればどんなことにも打ち勝てるということを。 そしてそのタオルで、リュックの汗まみれの顔を力任せにわしわしと拭った。 「これ、置いてくッスから!これを俺だと思って、安心してろよ」 「・・・ありがと」 「じゃ!行ってくるッス!」 満面の、皆に安心を与える笑顔を浮かべ、力強く拳を掲げてティーダは出て行った。 すぐユウナたちも来るだろうから、がんばれよ!と言い残して。 「リュックー」 「お?」 声のした方をリュックが振り返ると、そこにはティーダが投げ出した通信スフィアが。 どうやらティーダは試合の様子を見たショックで、ユウナと通信中であったことすら忘れてしまったらしい。 リュックはけだるい身体を何とか動かし、心配そうにこちらを見つめる従姉と再会した。 「何だかね、砂漠に行ったらしいよ」 「ん?誰が?」 「だから、旦那さん」 「ああ、あいつ。ていうか、砂漠?何で?」 「さあ。でもジョゼのギップルさんの部屋を見てもらったら、ビーカネル島の地図が何枚か広げてあったらしいの。ホームがあったあたりとか」 「ホームぅ?何の用事だろ・・・こんなときに」 「ホントだねぇ、こんなときに」 はあ。 「とりあえず私、急いで行くね。リュックも一人じゃ暇でしょ?」 「うん、ありがとユウナん!」 暇・なんて言い方をしたが、本当はとても心配してくれていることを知っている。 何故なら通信スフィアの背景が先程から勢いよく流れているからだ。 何かに乗りながら(チョコボか、移動マキナだろうか)、急いで走らせている。 もしかしたら、ティーダに通信を入れた時点では既に移動している途中だったのではないだろうか。 試合の様子を見れば自分の夫が結局試合に行くだろうと、そうするとどこぞにいるかわからないギップルを自分も探し続けるよりは、捜索は仲間に任せて自分はたった一人の従妹の元へ向かおうと。 心優しいリュックの大好きな彼女なら、そう考えてそうしてくれていそうだ。 「すぐ着くからね」 にっこり、笑ったユウナの背景が止まった。 恐らく到着したのだろう、玄関がにわかに騒がしくなったのを聞きながら、リュックは笑顔を返した。 * 「ぅあったあああああぁぁぁ!!!」 「うるさっ」 その頃。 砂まみれの被捜索人は、喚起の雄叫びを上げた。 「うわー、ホントにあるなんてなー!よかった・・・」 「何だ、そんなもん探してたのか。奇跡だな」 「っておい、一緒に探してくれてたんじゃないのかよ」 隠しきれない喜びを溢しながら、ギップルはずっと一緒に捜し物をしてくれていたアルベドの仲間を小突くように拳を突いた。 「じゃあ、そろそろ行った方がいいんじゃないかい」 「?ああ、戻れってこと?そうだな、そろそろ」 「もうかれこれ3日は経ってるしね」 「・・・え?」 「しかも何回も、色んなとこから通信入ってるしね」 「ああ?!なんっじゃそりゃあ!」 何でもないことのように言ってのける仲間にギップルが食ってかかれば、やはり何でもないことのように言い返される。 「だってあんたが言ったんだろ、秘密の作業をしてるから誰からの連絡だろうと自分がここにいることは伝えないでほしいって。寝食忘れて砂まみれになっていたのはあんたの勝手だしねぇ」 私のせいじゃないだろ、としれっと言われてしまっては、それまでなのだけれど。 しかしいつのまにやら3日も経ってしまっていて、いつのまにやらそれほどまでに通信が入っている、ということは。 「もしかしたら、もしかしてるかもしれねぇじゃねえかそれーーー!!!」 まさしく、もしかしているのである。 探していた大事なものをがっちりと掴み、その他すべての荷物はそのまま忘れ、ギップルは単身ホバーに乗り、アクセル全開でその場を後にした。 さて、間に合うのか、否か。 つづく まさかの4年ぶりの更新でした;;でもこの話、個人的に好きです笑。あと1回で終わりなので、今年中には・・・ (160817) |