手を繋ぐことは、とても愛しいこと。
そんなことを、幸せいっぱいな気持ちで考えていた。









ほむら、ひとつ

11










「ワッカぁ、俺ちょっと一抜けッス!」
「こらぁぁ!エースがそんなんじゃ示しつかんだろうがぁぁ!」
「悪いっ!」


朝、ビサイド島。
白い砂浜がスピラ一美しいことで有名な海岸で、ビサイド・オーラカの選手達が早くから遠泳の練習をしていた。
しかしどうしたことか、それまでぶっちぎりで沖を目指していたエースであるティーダが、途中で思い出したかのように反転し、浜辺に着くなり村の方に走っていってしまった。


「何だぁあいつ・・・罰として、午後の練習は倍量やらせる!」


ぶちぶち言うワッカを置いて、肝腎のエースはといえば。
実は抜けることは始めから決めていたのだ、が、コーチのワッカに言うのを忘れていた訳で、思い出すなり村に走っていったのだ。

スピード王とも言えるティーダは驚異的な走りでものの五分足らずで村に帰り着き、帰り着くなり自分の家に直行した。


「ユウナ!」
「あ、おかえり。早かったね」
「へへん、全速力で走ってきた。それより、船着き場まで迎え行くんだろ?」
「うん!でも、君はどうせ浜で練習してたんだから、わざわざ帰ってきてくれなくても大丈夫だったよ?」
「あ・・・いや、ほら、俺ユウナの一生ガードだから!魔物から守るッス!」


くすくすと笑うユウナに指摘を受けたティーダは真っ赤になりながら、しかし彼にしてみれば至極大真面目な返答をした。


「それよりよかったな、元気そうで」
「うん、オーラカ優勝の打ち上げのときはどうしたのかと思ったけど・・・昨日は、元気そうだったよね」


昨日の夜、ユウナの通信スフィアにリュックから連絡が入ったのだ。
以前ビサイドに来たリュックがいつもの元気を持ち合わせていなかったのは、二人とも心配をしていたことだった。
さりげなく心配しながら、しかし根が正直な二人だからばればれだったのだけれど、まだ数日しか経っていないのに常の様子を取り戻していたリュックの様子にほっとしていた。


「でも・・・ねぇ、気づいた?」
「何に?」
「リュック・・・前と、ちょっと変わってたよね?」
「え、そうかな?」
「うん、そうだよ。・・・どこかは、よくわからなかったけど」
「ふーん?まあユウナが言うならそうなのかもしれないけど・・・」


不思議そうな顔をしてフラタニティを腰にぶら下げたティーダがまず家を出、その後ろを足取り軽くユウナが着いていった。
確証は何もなかったけれど、きっと大切な従姉妹に嬉しいことがあったのだと思いながら。

今日の昼の便で、リュックがビサイドに来るのを迎えに行くのだ。









「おいアニキ知ってるか、数ヶ月前にジョゼで、アルベド限定飲み会があったらしいぞ」
「ぬわぁにぃ!?何で俺たちにお誘いが来なかった!」
「何でも、ナギでの合コンの日だったらしい。残念だったな」
「くぅ、合コンも大事だが、非常に面白そうだったな!ギップルめ!」
「おいおい何でギップルに当たるんだ」
「どうせ奴主催だろう!カモメ団だけ抜きなんて、許さん!」
「抜きにされる理由なんてない筈だが・・・抜きにする理由がお前にあるとはいえ」
「・・・あ!」
「ん?」
「そういえば一時期、ジョゼからの交信を拒否に設定していたことがあるかもしれない!」
「お前のせいか・・・やれやれ」


セルシウスは自動操縦にしているので、二人は今マスターに昼食を作ってもらっている。
ダーリンも正式にカモメ団メンバーとして受け入れたため、今居住区はこの二人で切り盛りしているわけだ。
たまにセルシウスをミヘン街道やナギなどに止め、バーを運営しているので、今やカモメ団の重要な資金源になっていたりもする。

ダチはグラスを傾け、そういえば、と今いない五人目のメンバーを思い浮かべた。


「リュックは行ったらしいぞ」
「!裏切りだ!」
「たまたまだろ・・・案外ギップルから直接誘われたのかもしれないけどな」
「何!?」
「昔から思ってたけど、あそこはずっと微妙な雰囲気だったからなぁ」
「ど、どういうことだ!」
「数年ぶりに再会して、お互い気持ちが盛り上がったってか」
「おい、おい、ダチ!」
「しっぽりいっちまったか?はっはっは」
「ダチ!おい!」
「何だよ」
「それはリュックとギップルが、できてるってことか!」
「さぁな。でも、できてても不思議ではないな、あそこは。ギップル次第と見てる」
「あいつの義兄なんて、死んでもいやだ!!!」
「話が飛躍しすぎだろ」


何も知らない割に、的を射ているような会話が、居住区で繰り広げられていた。

勿論本人達は、全く知らないことだけれど。









ポーーーー ・・・


連絡船リキ号の汽笛が、ビサイド島に合図を送った。


「あ、来たみたいだよ!」
「お!」

ユウナを隣に、再び現れたティーダにワッカは目くじらを立てたが、事情を話すと許してくれた。
どうやらこの男も、さりげなく彼女のことを心配していたらしい。
練習を一時中断し、オーラカメンバーも総出で出迎える手筈を整えてくれた。

やがて船に乗っている人間も肉眼で確認できるようになり、客の中からリュックを探すことができた。
それなりユウナは彼女の名前を叫ぼうとしたが、喉元の寸でで止めてしまったので、むせてしまった。


「ど、どしたのユウナ」
「げほ、げほ、・・・いや、あのね、リュック見つけたから、呼ぼうとしたんだけど、・・・ほら」


ユウナが指差す先。
その指につられるようにティーダが視線を動かすと、確かに見つけた。
リュック、と、もう一人。


「あれ・・・?あいつ」
「ふふ、・・・ね、声かけられないでしょ?」
「あの雰囲気じゃなぁ・・・」


呆れ半分、でももう半分は何とも言えない、嬉しさだったり。
どうやら気が付いていないらしいワッカは、両手をぶんぶん振り回し、彼女の名前を呼んだ。


「おーーーーい!リュックーーー!」









「あ、ワッカだ」
「オーラカのコーチだっけ。元気だなぁ・・・」
「このリュックちゃんと張るくらいの元気マンだよ、ワッカは!」
「へえ」


ぎゅっ。


「!」
「緊張する?」
「そ、そりゃあ・・・でも、大丈夫だよ」
「ほお」
「あんたいるし」
「・・・だな」


ぎゅうう。


「痛い」
「放す?」
「やだ」
「素直だなぁ。・・・あのさ」
「うん?」
「これから、色んなトコ行って、色んなトコで頭下げて、多分色んなこと言われて、大変だろうけどさ」
「・・・」
「がんばろうな、一緒に」
「・・・うん」
「へへ」
「あたしもあんたとこの子のためにがんばるし、それにあんたのことも信じてるから、大丈夫」
「・・・」


ぎゅう。


「ああ」









今日も、波が穏やかで。
太陽は、優しく強く輝いて。
二人と、二人が守る命は、その下で未来のためにまた一つ、誓いを立てた。

きっかけは綺麗とは言えず、苦しみでのたうち回ったけれど。
掌から伝わる熱が本物だから、今もこれからも歩いていける。

寄せ合った肩から、また一つ熱が。
彼女の身の内で、絶えず育つ一つの熱が。
毎日伝える、愛しいと思う熱が。

それら全てのあらゆる熱が、混じり合いやがて一つとなって、未来を灯してくれるのだろう。
ただ今は、隣の人を信じて、愛して。

ほむら、ひとつ。









End.














これにて、完結でございます・・・!
タイトルには色々な「ほむら」をかけていたので、最後に色々明かしてみました。自分としてはギプリュがくっつくきっかけになった赤ちゃんの命というのが一番強い意味合いを持っていますが、どれも全てひっくるめて・というのが素敵かなぁと思います。
さてさてこうしてめでたく(まだ色々途中ではありますが・・・シドとかにも頭下げに行かなきゃだし;;笑)丸く収まったギプリュでしたが、いかがでしたでしょうか。ツッコミなり何なり、一言頂けると嬉しいです^^
一年以上かけて書き上げ、反省点もありましたが、ある意味サイトでFF10を取り扱おうと思ったきっかけの妄想を無事昇華でき、嬉しく思います。ここまで読んで下さった方にも、最後の船の上でのギプリュの幸せを感じていただければ幸いです。
それでは終わらなくなりそうなのでこの辺であとがきを切り上げます。読んで下さってありがとうございました!!
(091017)
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