やんなる。
本当に、心から。
誰のせいって勿論あいつのせい、いやあたしも、かな?

ただ一つ悲しいけど明らかなのは、悩みの種であるこのお腹の中の子は一切悪くないってこと。
偶然あたしのお腹にいるこの子は、どうひっくり返ったって全く悪くない。
それは、混乱する頭でも理解できていた。

だからこそ、当たりどころのない嫌な感じの気持ちがいつまでももやもやしているんだと思う。









ほむら、ひとつ











祭の次の日、騒ぎ疲れてそこかしこにぐったりしてる人たちの中、誰にも何も言わないでこっそりビサイドを後にすることにした。

ただ、ルールーだけは早くから起きて朝ご飯の支度をしていたから、少し話をしたんだけど。
きっとこの人は何かを察していたんだと思う。
あたしが居たたまれなくて朝早くに出ていくだろうって気づいてたんじゃないかな。
わからないけど、とにかくルールーはこっそり朝ご飯を一人分、用意してくれてた。


「おはよう」
「・・・おはよ」
「もう行くの?」
「・・・うん」
「そう。・・・何かあったら、連絡しなさいね」


スプーンに手を伸ばしたあたしの前に座って、コーヒーを口元に当てる姿には、何か得体の知れない安心感を感じさせられた。
そして馬鹿みたいに、ああお母さんだ・なんて思った。
前からそういう世話焼きなところはあったけど、今日もそう思わされた。

ねえルールー、あたし、今回ここに来てよかった。
気晴らしになったとかやなこと忘れられたとかじゃなくて(実際その「やなこと」は忘れるんじゃなくて具現化しちゃった訳だし)、あなたにばれちゃってよかった。
別に一つも相談してないし、弱音すら吐いてないけど、ここであなたがあたしのこと知ってるって思うと、頑張ってるの知っててくれてるって思うと、力出てくる気がするんだ。


「ふにゃぁ」
「!」
「あらあら、また起きちゃったの?」


少し離れたところでイナミちゃんが泣いた。
それを聞いて慣れた風に声をかけながら(当たり前か)、よいしょって抱き上げて、緩く左右に揺れながらあやしている。

もしかしてルールーはあたしの為にわざわざ起きてきたんじゃないのかな。
イナミちゃんの世話してて起きたからたまたま朝ご飯作ってくれたのかな。
まあどっちにしても、ありがたいけどさ。

・・・いや、きっと、イナミちゃんが大きくなってぐっすり寝られてたとしても、きっと朝ご飯用意してくれてた。
うん、ルールーだもん、きっとそう。


「よしよし・・・いい子」


野暮っていうか、変な話だけど。
普段の凛とした姿のルールーの方が印象によく残ってるあたしからすると、髪の毛も簡単にまとめただけで、ドレスも少しシワが入ってて、化粧も全くしてなくて、少し疲れた雰囲気も漂わせながら赤ちゃんを抱くこの人の姿が、物凄く異質に見える。

でも目にはちゃんと、イナミちゃんへの愛しさがあるのが何でかはっきりわかっちゃうんだよね。
誰でもママになったら、ああなるのかな。


「リュック」


はっとして顔を上げたら、何を考えてるのかよくわからないルールーと目が合った。
そしてあたしの手はいつの間にか、自分のお腹を撫でてた。
きっと、いる場所。


「・・・冷めちゃうから、さっさと食べちゃいなさいね」


ちゃんと笑えたかわかんない。
でもルールーが優しく微笑んでくれたから、嬉しくなった。

味付けの簡素な野菜スープは驚くほどすんなり身体に馴染んで、毎日でも飲みたいって思う位だった。
いつもなら濃い味付けのが好きなんだけどな。
お腹のこの子が、薄味が好みなのかな。

・・・そういえば、あいつも薄味派だったような。
ポワン・って浮かんだ昨日の笑顔は、昨日感じたより全然印象よく感じられた。
まるでこのスープがあたしのもやもやした感情を浄化してくれたみたい。

それとも、この子が嫌わないでって思ってるからかな?
嫌ってないよ、大丈夫。
ただ、まだどうしていいのかわかんないだけだからね。
・・・あは、何か、独り言みたいな考え事、増えてきそうかも。

ルールーもそうだったりしたのかな?
お乳を飲んでぐずり方が軽くなったイナミちゃんをあやして窓辺に立つ女性を眺めながら、いつか笑いながら相談できたらいいなって思えた。


「ご馳走様!もう行くね」
「ええ、またいらっしゃい」


早くそうなれば、いいな。










家を出たら何ていうか、死屍累々。

早々に蹴っ飛ばしちゃったのはワッカのお腹だった。
んもう、お父さんなんだからせめて家に帰りついてから寝ろっつの。
そうは思えど、優勝目指してずっと頑張ってた訳だし、仕方ないよね。

あ、そういえばワッカにろくにおめでとうって言ってあげられなかったかも。
何か結局自分のことでいっぱいいっぱいだったし・・・。
あとで、通信入れとこうかな。


「・・・てゆーか、今から行って病院開いてるかな・・・」


ルカに行くつもりだった。
あそこならお店も病院もたくさんあるし、最悪匿名でも受けられるし。

でもそういえば、どこの病院行くか決めてなかった・・・。
・・・。
時間たっぷりあるし、歩きながら探せばいっか。


「連絡船は結構早くから出てたよね」


アニキたちはまだぐっすり寝てる。
あたしがいなくても、ビサイドに滞在する理由ができるから喜ぶだけでしょ。
検査終わったらすぐ帰ってくるし、祭の片付けが終わるまでに間に合えば大丈夫。
な、ハズ。


「お金も持ったし・・・保険証も」
「病院でも行くッスか?」
「ひっ!?」


ちょっと、飛び上がったかも。
びっくりして振り返ったら、さっきは絶対いなかったはずのティーダが真後ろに立っていた。
気配絶対なかったって!

「な・・・何で、いつの間に」
「それがさあ、ついさっきまできもーちよく寝てたのに、いきなり誰かにエルボーされて!びっくりして起きたらワッカが寝惚けて俺の方にひっくり返ってきてて」
「・・・」


もしかして、さっきあたしがワッカを蹴飛ばしたとき、かな?
心の中でティーダとワッカに謝りながら、どうやってこの場を切り抜けようか一生懸命考えた。

寝ぼけ眼で目こすってるくらいだから、ホントに不意に起こされてたまたま目に入ったあたしを見つけてついてきちゃったんだ。
よし、使える。


「ね、あんたまだ眠いんでしょ?」
「んー・・・まあ」
「じゃあ寝てきなよ!あのね!ワッカんちでユウナん気持ちよさそーに寝てたよ」
「まじッスか!じゃあ俺も一緒に寝てくるかな」


一気にテンション上がったらしいのが目に見えてわかって、成功!って思った。
ユウナんはさっきまで隣で寝てたし、まあいざってときはルールーが何とかしてくれるでしょ。


「あ、でも」
「え」


途中まで行ったのに。
正確には、あたしに背中を向けて三歩歩いたのに。
そのまままたくるってこっちを向いて、心優しいティーダはこう言った。


「リュック、病院行くんだろ?心配だからついてくよ」
「・・・」


いい奴。
ありがとう。
大好き。
でも。


(余計なお世話〜〜〜!)


「いっいいいいいいよ!チイは昨日の主役でいっぱいお酒飲まされて疲れてるでしょ!」
「でも」
「大丈夫!大丈夫だから!病院って言っても軽い用事だから!」
「軽い用事って何?」
「えーとあの、あ、この前のミッションでちょっと・・・そう、腰打って!」
「はっ!?大丈夫なのかよ!」
「ああ、もう、全然!痛くないんだけど医者がどうしてもっていうから、今日が最後の通院ってわけ!」
「ふーん・・・」
「ね!大丈夫だから!オヤスミ!じゃ!」


何とか勢いで押し込んで、無理矢理納得(?)させた。
よし、やればできる!
相手はまだ寝ぼけてる人だもん、楽勝だった!

急いで踵を返したあたしを、でもこいつは尚も腕を掴んで引き留めた。


「ちょっと待ってな」


あたしが勢いだったならきっとティーダも勢い。
待ってろっていうなり背中向けて走ってっちゃったのを眺めながら、行っちゃおうかなって思ったさ。
でも何となく後ろ髪引かれちゃって、仕方がないから待ってることにした。

何だろう、これでも食べて元気つけろ・とか言って棒付き肉持ってきたりして。
うへえ、そしたら悪いけど食べらんないな・・・。

とか、思ってたら。


「俺の代わりの保護者!こいつ今日朝一で帰らなきゃいけないとか言ってた気がするから、連れてけよ」
「・・・」
「ん?何だ?はっ、もう朝かよ!帰らねぇと・・・、あ、シドの娘!おはよ!」
「・・・・・・・・・・」


どういう、運命の回し方をするわけよ!

寝ぼけた男二人を眺めながら、このギップルを断って一人で行くのは状況的に無理だな・と悲しくも悟ってしまった。

ホント、どうしよ・・・。









Continue.









前半のルールーとリュックの会話は、このつづきものの中で書きたかったパートの一つです。おもったより短くなったけど書けてよかった!ルールーはなにげに大好きなキャラで・・・10-2のティーダ復活エンドでティーダに向ける笑顔が大好きです(マニアック)(でもあの笑顔はいいよね!)
で、後半はティーダが余計なお世話というかグッジョブというか。ホントはティーダいらないかな、ギップルがリュックを見つけてそのまま一緒に行けばいいかな、とか思ったんですが、俺が行くッスと言わんばかりに妄想中に出張ってきたので(苦笑)こんな感じになりました。
次では1以来のギプリュコンビでお送りできるかと・・・!どうなるんだ!(お前が書くんだよ)
20090308
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