午前中イチバンの診察だったから、余裕でお昼の船でビサイドへ舞い戻ることができた。









ほむら、ひとつ











案の定、お説教の類は受けることはなかった。
ていうかアニキなんてまーだ寝こけてたんだけど!
もしかしたらルールーが配慮してくれた部分があったのかもしれないし、もしくはみんなお祭りが楽しくて人一人いなくても気が付かなかったのかもしれない。

まあとにかくそんな感じで、なにごともなかったみたいに後片付けに混ざった。
そしたらティーダとユウナんは凄い心配してくれちゃって、殆ど傍にいてくれた。
ティーダ曰く、起きたユウナんについてかなかったことで大目玉食らったらしくて。
悪くもないのに謝ってきたり、ユウナって優しいよな・なんてオノロケ聞かされたりしちゃった。

そしてあたしはといえば、そういうの全部、笑って聞いてた。
何でだろう、いつもよか嬉しさ3割増みたいな、不思議な気分だった。
多分、自分の中で何となくケジメついたからだとは思うんだけど・・・、あたしってつくづく、単純だわ。


「あら、リュック」
「!」


ルールーには少し驚いた顔された。
でも考えてみれば当たり前かも。
さっきの今だもんねえ、ルールーのスープ飲んだの。

何か照れちゃって、ルールーの顔まともに見れなくて、でも言いたくて、一生懸命頭の中で状況整理してみた。
ああ、指汗が。


「んと・・・あのね、やっぱ、いた」
「!」
「?何の話してるッスか」


隣でテーブル拭いてるティーダは不思議そうな顔。
そりゃそうだ。
するとルールーは機転を利かせてくれて、ティーダに用事を押し付けてその場から追い出して くれた。

話しやすくなったその空間で、でもやっぱり直接的な単語使うのはまだ恥ずかしくて、だからやんわり伝えてくことにした。


「何かね、あの後何だかんだ色々あって、この子のパパがルカまで送ってくれて、あ・まだ事情は知らせてないんだけど、とにかくなりゆきで一緒に行って、そいつと船で下んないこと話してたら何か、元気出たっていうか・・・」


ダメだ、まとまんない。
実は前から思ってたけど、あたしって説明ヘタ?


「ふうん」
「?」
「父親、はっきりしてたんだ」
「!」


い、今のセリフ!
ちょっと聞き捨てならないんだけど!
ルールーってばあたしのことどう思ってた訳よ・・・。

まあでも、結婚しないでこういうことになっちゃってたら、やっぱイコールだらしないってことに、なっちゃうよねえ。
自業自得とはいえ、これから他の人にもそう思われちゃう訳か。
・・・最早、仕方ないんだけどさ。


「で?あんたなりに結論出したんでしょ?この後どうするか」
「・・・ん」


さすが才女。
二年前の旅のブレーン。
話進むのがめっちゃ早い。
一を聞いて十を知るってやつ?


「ちゃんと話つけてくる」
「・・・」
「詳しいこと言えないけど・・・あたしのせいで、あいつこの子のこと知らないの。だからまず話して・・・そんで、」


息を切った。
話の途中で息が切れたとか、次言うことに特別力入れたかったとか、そういうんじゃなくて。


「どうにか、なるかな?」


何とも言えなかっただけ。
だって正直どうなるか、全くってくらい想像できなかったからさ。

出たとこ勝負・・・ダメ?


「くす」
「わ、笑うなぁ!これでも必死に」
「わかるわよ」


言い訳しようとしたあたしに、でもルールーはすっごいいい顔返してくれた。


「あんたらしくていいんじゃない?最も・・・相手の男が変なこと言おうものなら、私が怒鳴り込みに行ってあげる」
「!」


野蛮な物言いはまるで、二年前の彼女のよう。
でもすっごく嬉しかった。
お腹のこの子も、喜んでるみたいに感じるよ。


「あはは、やっぱルールーかっこいい」
「そう?」


笑う視線の端に、ワッカが見えた。
だから半分興味本意で、もう半分は参考にしたくて。


「あのさあ、ルールーはどうだった?」
「え?」
「イナミちゃん、いるってわかったとき」


ちょっとびっくりした顔された。
けど、何か予想でもしてたみたいな感じ。
あたし思考が単純なのかな・・・。


「・・・まあ、一応結婚したあとだったし、子ども欲しいって話もしていたし、別に驚きはしなかったけどね」


おお、冷静。


「でも、すごく嬉しかった」
「・・・」
「子どもができたって聞いて、私も嬉しかったし、ワッカが私以上に喜んでくれたから、それを見てまた嬉しくなった・・・かな」


ルールーにしては、照れてた気がする。
でもそんなこの人のレアな顔よりも、あたしに衝撃みたいのを与えたのは。


「・・・そっか」
「?」
「あたしは、嬉しくても・・・」


正直、最初に感じたときは嬉しいとか思わなかった。
生活リズムも精神も乱れまくったあのときのあたしは、間違いなく喜んでなかったでしょ?
でもでも、今は受け入れて、産みたいって思ってて。
もしこの状態で、この子が生まれてきてくれたら、間違いなく嬉しいって思う。
成長していくこの子を見て、あたしは日々幸せを感じる。

でも、その嬉しさとか、喜ぶ気持ちとか、幸せとか。
もっともっと、大きくできるんだ。


「あいつがいれば」


頭の中に、ぽんって浮かんだ。
・・・いや、朝別れてからずっと、傍にいたみたいに。
ずっとずっと、片隅にはずっとあった顔だけど、でも今ほど、切羽詰まったみたいな気持ちはないよ。
苦しい、ホントに、あいつが必要だって感じた。


「ねえ、やっぱり、ワッカがいなかったら嬉しさ半減でしょ!?だってルールーは赤ちゃんが生まれたことも嬉しかったけど、でも」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
「あ、ごめん・・・」


逸った気持ちのまま、掴みかかるみたいにルールーにしがみついちゃって、自分の不安加減がわかった気がした。


「まず話す、って言ってたわね」
「!」
「どうなるかはわからないけど・・・、でも、こうなってほしいっていう理想は、あるのね」
「・・・」


理想。
それは、やっぱり。


「・・・うん」
「じゃあ、がんばんなさい」
「うん」


くしゃりと頭に置かれた手が、どうしようもなく優しくて・・・、嬉しかった。


「リュック!ユウナがスコーン焼いたってさ!食ってけよ!」
「うん!」


用事を済ませて、更にはユウナんにちょっかいを出してきたらしいティーダの手の中には、バスケットいっぱいのスコーンがあった。
まだほかほかで、おいしくて、嬉しかった。


「まったく、驚かされるわね・・・」
「?何に?」
「あんたによ、リュック」
「???」


言葉の意味はよくわかんなかったけど、そのときの優しいルールーの笑顔は、印象的だった。









「!お嬢さん、宴会ぶりですね。お元気で?」
「うん、ジョージョー!」


ビシッと右手を伸ばして、元気ポーズ。
にっこり笑顔も自然に出て、こりゃもう完全いつものあたし、ってね。

この前来たジョゼはすんごいお酒の臭いだったけど、もう油の臭いに早変わりしてる。
毎日朝から晩までマキナいじってるんだから、当たり前っちゃそうなんだけどね。


「あらリュック」
「こんちは!」
「今日はどうしたの?カモメ団に要請したなんて聞いてないけど」
「ん、来たかったから来ただけ」
「そう、じゃあ、丁度いいわ!手伝ってくれる?」
「お?」


引きずられるまま、元寺院の中に入ったら、みんなわたわた忙しそうに作業してた。
ヴェグナガンのときのおっきい機械みたいに、まーた何か作ってるのかな?


「あれ、お前病院は?」


引きずられる途中で、横から声をかけられた。
このジョゼ寺院で、病院なんて単語をあたしに投げつけるヒトなんて、ただ一人。


「もう終わったよ」


ギップル。

朝一緒にいた彼は、この仕事の関係で早くに帰ってきたのかな。
そのくらい“働きました”ってオーラ出してるギップルは、少し距離あるのに服にオイルのシミが見えるし、ちょっと汗くさいし、整えてた髪が少しほつれてる。
・・・あ、汗くさいっていうのは、別に悪口じゃないよ?


「ふうん、安静にしとかないでいいわけ」
「これ以上は身体がなまっちゃうって!動きたいのー!」
「あっそう。じゃあ手伝ってよ」
「それもう言われたし」


あたしをひきずる人が交代して、また引きずられる。
女の人から男にかわったから、引きずられるスピードが速くなったなあ、なんてどうでもいいことも考えつつ。

この男の背中の、ズボンの吊革見てたら、今日二回目のルールーとの会話の方を思い出した。
そんで、ルールーとワッカを思い出した。
二人が笑顔で見つめる、イナミちゃんを想像した。

今日の朝早くに元気取り戻して、お日様が完全に上りきる前に決心して、本当にしたいこととか、してほしいことを、自覚して。
早い、凄い早い展開だよ。
うだうだ悩んでた昨日までが、何かアホに思えてくるくらい。

昨日、一昨日だっけ?
この男の笑った顔にむかついたの。
でも今は、どうよ。
見たいよ、笑顔。
今だけじゃなくて、ずっとさ。


「これなんだけどさ」
「!」
「昔こういうの、二人で解体したよな?覚えてっか?うちの奴らだーれもわかんなくてさぁ」


わかってやってんだったら、どうしようね。
ギップルがあたしを引きずってきたのは、数ヶ月前に初めてキスした場所だった。









Continue.














つぎ、おわる、かな?って感じです。見えないけど佳境です。
困ったときのルールー頼みという感じで、何のヒネリもなくルールーさんにまたお出でいただきました。いいのかこれ(笑)考えていないの丸わかりですが、でもやっぱりね、この件に関する後押しはルールーにやってほしいのが本心です。まあでも今回は会話の中でリュックが自分で見つけた感じですが。スープ飲んだときの会話と今回とのリュックの心境や態度の変化を感じて頂ければいいかなと。全然別人ですよね(笑)
そんでわかりづらくなっちゃったので自分で言っちゃうと、スコーンはリュックへのみんなの気持ちの暗喩です!
さてさて、終わりが見えてきたこのつづきものですが。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
090813
inserted by FC2 system