今度こそ、工具を取り落とした。 ほむら、ひとつ 9 「・・・え・・・?」 気が付いたら、思わず聞き返してた。 だって、さあ、何て言うか・・・、何て返せばいいのさ。 「あー・・・お前も、覚えてたら話が早いんだけど」 何の話を始めようとしてるの、あんたは。 それは、タブーでしょ。 ていうか、覚えていない・・・んじゃ、なかったの? 「あ、早いってのは適当に考えてるんじゃなくてだなぁ、話がしやすいって意味で・・・」 ぼりぼり。 後頭部をばつが悪そうにかいてる。 心なしか、唇をツンと突き出しながら、話してる。 まあこれはこいつなりに、緊張している態度だ。 そんなことはわかる、わかってる。 わかってるから・・・、背中がざわざわするのを気持ち悪く感じた。 胸が締め付けられる感じがした。 「何つーか・・・、酒の勢い、だったし」 あ、待てよ、もしかしたら覚えてるのはキスしたとこまでで、その後はお酒がぐるんぐるんしちゃって記憶が曖昧って可能性もあるよね。 ちょっと冷静に考えるとそれどうなのって感じだけど、そうあればいいって思った。 だってそういう前提でずっと考えてきたんだから、さ。 「酒の勢いでそーいうことやっちまった後って、何ていうか、なかったことにした方がいいんかなとか思って」 ・・・万事休すだった。 嘘、嘘、嘘! こいつ、ばっちり覚えてたってか! リュックちゃんの必死のゴマカシも、無駄だったってか! あー・・・れ、何か、恥ずかしいっていうか、むかつくっていうか、何それっていうか、・・・何ていうか。 思うことありすぎて、何言えばいいのかわかんなくて、大人しくギップルのいうことを聞いておくことにした。 「・・・ほら、お前ちょっと・・・あの後、調子悪そうに見えて、やっぱ会いづらいんかなとか、思って。そしたらこのことシラフで改めて言うのはタブーかなと、勝手に結論しちまって。でもよく考えたら何か、それもイヤだな〜と・・・」 言葉が辿々しいギップルなんて、久々に見た。 いつも、特に最近なんかは、堂々とリーダー張ってるこいつしか見てなかったから。 それが逆に、こいつ100パー本気で言ってんだなっていうのが伝わってきて。 ドキドキしてきた。 「いや!ヤだっつうかそうじゃなくて、男としてどうなんだって思ってだなぁ・・・、あの、まあ、その、ヘンな話、アレでお前のこと改めて考え直して、色々ひっくるめて、・・・あー、昔は、つかホント・・・あの日まで、妹分だと思ってたんだけど、・・・」 確かに。 そうだったらいいなって思ってた。 それ聞いてる今だって、合わせてる目ん玉飛び出してきそうなくらいびっくりしてるし、嬉しいし。 「好きだと、思ってよ」 でもさ。 「・・・」 「・・・」 「・・・すっごく嬉しい、よ」 「っシ、!・・・」 どうしよう、あたし。 「おい・・・?」 言って、いいのかな? 「何で、泣いて・・・」 「・・・」 だってこれ、ホントに、嬉しいけどさ。 ここであたしもって言っちゃったら、あんた、困らない・・・? あたしがあの日、体中から血の気が引いていくのをモロに感じちゃったあの体験。 隠すために、必死になってあたしがいたという証拠隠滅をして、からがら逃げ出した。 しばらくは何気ないふりをして、何もなかった顔してたけど、ある日を境にして状況が一変して。 絶望して、泣いて、いつものあたしを失って。 笑うふりして、嘘吐いて、また泣いて。 正直ああいうことをなりゆきでしちゃったこと、後悔したときだってあったよ。 何度も何度も、来る日も来る日も、後悔したよ。 赤ちゃんができなかったとしても、こんな筈じゃなかった、って絶対思った。 大好きな人と幸せな気持ちでするもんだって、思ってたから。 だけどあたしはあたしなりに立ち直って、元気出して、やってこうって思って。 「どうしたってんだ・・・?」 「・・・」 俯いたまま、ギップルのしゃがんだ足下しか見えないけど。 身体の中心から好きって溢れるくらい、好きなのはホントだよ。 今日はぶっちゃけ、あんたに告りに来たわけだよ。 赤ちゃんのことはとりあえず内緒にして、あたしの気持ちだけ言って、すっきりしようって。 そうしようって。 それがあたしなりに向き合うってこと。 自分勝手かもだけど、あんたのことあんまりにも考えてないかもだけど、だってしょうがないでしょ。 まさか何ヶ月も隠してた赤ちゃんのこといきなり打ち明けて、結婚してって詰め寄るわけにもいかないし。 それじゃ半分脅しじゃん。 ・・・あれは、ホントに、お酒の流れだったんだから。 あんたがあたしのこと好きかもって可能性も、考えたよ。 だってそしたら、まだあたしの気持ちの負担が減るじゃない。 だけどどうしても現実味が持てないし、過去のこと考えても、最近のこと考えても、ないでしょって結論したし。 そういうわけで、そうしようって、思ったのに。 乙女リュックちゃんならこの通り、めちゃくちゃ嬉しいよ。 でも、あんたさ、この子のこと知っても、同じこと言える・・・? (ああ、やば、頭がぐるぐるしてきた) 言わない 逃げる 言いたい 抱きしめて 好きってもう一回 いや どうしよう あたしもスキ キス ちがう ちがう ダメだよやっぱ、このこと知ったら ど き ん 「・・・、!」 思わず反射的に、お腹抑えてた。 傍にいたギップルは、それまで下向いてふるふる震えてたあたしがいきなり動いてびびったみたいだった。 けど、そんなんどうでもいいくらい、びびったのはこっち。 (・・・う、) うごい、た? (・・・・・・・・・いや、いやいやいや!うそだぁまだ、詳しいこと知らないけど、動くのってもっと産まれる一ヶ月前とか、そんなんじゃないの?まだこれだって、数ヶ月しか・・・) ・・・。 もしかしてこれは。 ぐちゃぐちゃ性に合わず難しいこと考えっぱなしなオカーサンに痺れを切らしたこの子の、後押し? 「・・・」 それまで渦巻いてたどうしようって気持ちが、不思議なことに一気に凪いだ。 息苦しかった胸の中が、すっきりした。 「・・・あの、ね」 「!おお」 その、場にそぐわないくらいの清々しい声で、あたしは口火を切った。 Continue. ・・・こんなところで、切っちゃいました^^笑 いや、無駄に長くなってしまい・・・。途中のリュックちゃんの回想カットしてギュッとこの話に収めちゃおうとも思ったんですが、いやあの何秒かでたくさん考えただろうと思い、敢えて残しました。読んで頂く分には、読み飛ばしてもいいかもですが;;まああらすじとしてもいいかも。いいのか。 あれーギップルのいいとこ書けませんでした(笑)ここはかっこ悪く告白してもらいたかったので、こんな感じに。次もやっぱりしゃべります。喋り倒します二人とも。 (091012) |