※時間軸は10です。 グアドによるホーム襲撃あたりのところを妄想してます。 ストーリー改ざんというわけではないのですが、いやな予感がする方は見ない方がよろしいかと思います。 大丈夫な方はどうぞ。














もう、ダメだったようだ。
その日、幾千という魔物に蹂躙されるホームを見つめながら、燃え盛るあちこちを見つめながら、沸き上がってくる思いや記憶を噛み締めながら、リュックは不安定に揺れる心に悟らせた。

色々なものが死んでいた。
仲間も、昔の遊び場も、思い出の場所も、目を閉じてしまっている。
もう、開かないのだ。
話し掛けたって、当然。

アルベド族の人間は不思議と、あまり過去にこだわらない。
だから、この悲惨な事件も、これを引き起こした犯人も、いつかは許せるのだろう、いつかはその上に立てるのだろう。
それは鈍感なんかじゃなくて、自分たちの強さだと思っている。

それでも・・・目の前でこうして、脳髄に刷り込むように消えていかれるのは、たまらない。


「うう・・・!」


(大声で叫びたいのが、ホント。
頭がぐちゃぐちゃにこんがらがってるのが、ホント。
ユウナんは勿論大好きで、心の底から助けだしたいって思ってるのも、紛れもなくホント。)

(だけど、アルベドの皆がこの上なく大好きで、ホームが大切で、守りたかったのも・・・、隠しきれないくらい、ホント。)

走りながら、リュックはいつでも転びそうになるのを必死に堪えていた。
それこそ命がけで、踏張っていた。

彼女の同胞は・・・昔遊んだ友達や、共に機械をいじった仲間たちは、どのくらい生き延びたのだろうか?
ケヤックは今まさに目の前で、死んでしまった。
ホームの内外を走りながら、魔物に引きちぎられた、見知った顔を何人も見た。
それ以上はもう、見ていられなかった。

ぎゅっと下唇を噛み、鉄味の唾液を飲み込みながら、足だけをひたすら、召還士のいる地下へと走らせていた。


(はっ、そ、そうだ、あいつは!?)


そしてふと、今の今まで衝撃で忘れていた、昔馴染みの顔が浮かんだ。

リュックがユウナんのガードになる少し前に、ひょっこりと帰ってきた幼なじみ。
決して軽くはない怪我をして、怒ったような虚ろな目をして、何も事情を説明しないまま、ビーカネルの、ホームよりもむしろ砂漠に住み着いた彼。

彼は無事だろうか。
今の状況でユウナを追うことと比べるのは間違っているとも思うが、昔から親しい人間である以上、意識が半分そちらに持って行かれてしまっていた。


「ティーダ!ばか、そっちじゃねぇよ!」


色々な場所が気になるのか、それとも予感でもしたのか、度々ティーダは目的の部屋とは別の部屋に入って行ってしまった。
手でも掴んで引っ張ってくべきか、そう思いながら、彼を追って図らずしも潜んでいたグアド族とバトルになってしまっているガード仲間の元に走っていこうとした。

でも、その瞬間。


「ーーー!」


思わず逆方向に、走ってしまっていた。
突然視界に、見知った金髪を捉えたからだ。
しかも今までのように地に伏せているのではない、走っていた。

(あの金、知ってる。
見知った背中、生きてる!)


「ぅおっ!」


走るその勢いのまま、体当たりするかのように、その人間の腕を引っ掴んでいた。
驚いて振り向いた顔は、彼女の思い描いた人物その人だった。


(無事だ、生きていた!)


「ギップル!!」
「シドの娘!何でここに・・・いや、つーか・・・無事だったか・・・」


感慨深いような無事の確認に、彼がここまでに自分と同じく、幾つもの無事でない命を確認してしまった事を悟った。
こんな状況でよく知った顔の文字通り生きたを見ると、安心で泣きそうになる。
でも今は泣いてる場合じゃないので、何とか堪えて甘えたくなる腕から手を離した。


「ちくしょう、グアドのくそったれ!」


どうやらギップルも、これがグアドによる襲撃であることを知っているらしい。
がん、鈍い音と共に勢いよく拳を壁にぶつけた。
彼は昔から短気なところがあったから、きっと今誰よりも怒っている。
血が滲んだだろう拳は、今もぎゅっと握られたままだ。

苦しげに寄せられた眉根からは、やはり怒りの感情と、同じくらいの苦悩の。
辛い、それはリュックも同じだった。
だからこそ、その願望がむくむくと胸の内から沸いてきてしまったのかもしれない。


「ギップル・・・」
「あ?」
「あのさ、・・・」


彼女にしては珍しくもある、少し気弱で、でも切迫するように溢れてくる思い。

どうしよう。
言いたくて、でも飲み込んでしまったのは、彼女の自尊心というよりはむしろ不安だったかも知れない。

仲間たちがそこかしこに倒れている。
息絶えている。
人一倍強いと自信を持てる精神も今は揺れ動き、足が震える、竦む。

でもだからといって、何をすればいいのかわからないほど錯乱しているわけでもない。
今全力で探しているユウナはきっと、他の召喚士と共に地下にいてくれているはず。
ユウナを探して、できれば旅をやめてほしい、だめでもせめて、死なない方法を探さなくちゃならない。

だから今言いかけたことはそうではなくて、言うなればやはり、リュックの甘えが具現化された言葉だった。


「・・・」


必死に喉の奥に飲み込んで、かわりに胸のうちで、呟いた。


(そばにいて)


「おい」
「!」


(あなたは死体にならないで、目を瞑らないで、いつだって手を握ったら温かい人でいて)


「お前、誰かのガードになったって言ってなかったか」
「あ・・・うん、ユウナん・・・」
「ユウナン?・・・ああ、例の従姉妹か、会えたのか」
「・・・うん」


何故か、ユウナの名を聞かれた途端、口にした瞬間、自分が恥ずかしくなった。
彼女の覚悟を忘れたのか、彼女の置かれている状況を忘れたのか、彼女が愛する人の手を握ることを我慢していることを忘れたのか。

脳裏にユウナの、何かをこらえているような、しかし気高いあの表情が浮かんだ。
瞬間、リュックはぶんぶんと頭を振った。
彼女の顔を消すためではなく、己の煩悩とも言える思いを消すために。
消せなくても、せめて我慢できるように。


「っあたし!行くね!ユウナん助けにきたんだよ、このままじゃ、危ないから」


ぐっと両の握り拳を顔前に、リュックは力強くそう言ってみせた。
あんたもすぐに逃げなよ、と付け足すのも忘れずに。

すると片方の拳に乗せられたのは、先程までぎっちりと握られていたギップルの掌だった。
震えていると感じたのは、気のせいだろうか?


「死ぬなよ」


そんな顔で、そう言われては、リュックもこう言うしかない。


「あんたもね!」


にっこり笑って、背中を向けて、別れた。
大急ぎで、遠くに見える“仲間”たちの元へと走った。
まだグアドの繰り出してきた魔物と戦っている。
それを確認するなりリュックはクローを準備し、臨戦態勢となった。

それまでの女々しい気分が晴れて不思議なくらいだった。
自分にはやるべきことがある、助けたい人がいる。
怖いけれど、辛いけれど、でも前に進みたいから、だから、一人でも立ってみせる。

少しだけ後ろを振り向きたかったけれど、そっと我慢。
ふと彼に握られた手を見たら血が付いていて、気付いたら口吻けていた。









この血に誓い





























「いや、ホーム襲撃のとこで二人は会ってないでしょ!」というつっこみは、なしで・・・苦笑
でも時間軸的にあり得そうだなーと思い、ちょっと捏造してみました。数分くらいなら、もしかしたら、ねぇ!(いやぁ・・・)
お互いに頼りすぎない、でも気にしてる感じの関係が好きですv
20081001
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