(おやすみ、アタシの恋心。) それは、全くの無意識下でのできごと。 ララバイそして深海へ 話はビーカネル島・・・かつてのアルベド族のホームがあった場所にて、時間軸も今から5,6年は遡るだろうか。 とにかく、その昔ベベルに以前のホームを襲われ、命からがら逃げ延びたアルベドがひっそりと再興したホームに、皆が馴染みだした頃。 子どもたち、つまりリュックやアニキ、ギップルたちも小さいなりにスピラの未来を各々の考え方で見つめだした頃である。 「シン」は、健在。 いつここも、あの逃げようのない力によって襲われるかもわからない。 その恐ろしい世界の、しかも自分たち以外味方のない世界で、それでも二本足で踏ん張っていられたのは、アルベド人独特の前向きさのおかげ。 そして、特にリュックには、あと二つ理由がある。 召喚士を目指しているユウナの存在と、周りの大切な人のおかげ。 (このアホみたいな寝顔だって、アタシの活力だし) じっと見つめる先には、彼女の幼なじみの昼寝姿。 日当たりのよい、一際高い塔の上で、大の字になっている。 休憩所として作られたらしいこの場所は、しかし誰かが利用しているところを見たことがなかった。 リュック自身が今日初めてここに来たから、もしかしたら存外皆が使っているのかも知れないけれど。 (こんなとこ、あったんだ) 改めて、このホームを建築した族長の娘はその場所を見回した。 それほど、広くはない。 この男が大の字になって、それでいっぱいいっぱいな広さ・・・否、狭さ。 今だって、リュックは幼なじみの大きく広げた足の間にちょこんと座っているのだ。 余った材料でちょこっと作られたようなこの物見台紛いの場所は、もしかしたらこの男自身が自分で作ったのかも知れない。 こうして、隠れて昼寝をするために。 (うわぁお、高い!) 彼を追ってこっそりと、でも夢中で昇ってきたときには気が付かなかった。 遙か下に、父親のスキンヘッドを見た。 しかしよくよく見てみれば太陽に照らされた金髪が微かに見えて、ああ兄のほうだったらしい。 「ぷっ」 思わず吹き出してしまって、そして慌てて口元を手で押さえた。 ちらっと、大の字を確認。 ・・・大口を開けている、OK! (・・・それにしても) きれいな顔だ、と素直に思った。 普通のアルベドよりも薄い金糸を持つこの幼なじみは、他にも多くある同年代の人間(例えばアニキやダチ)よりも多くの時間を過ごした。 気が合うのは昔から感じていたし、若干男勝りな部分があるリュックには、女の子たちと花を摘む時間よりもこの男と追いかけっこをしている時間の方が楽しかった。 これらの全てに勝る機械いじりという趣味は、更に二人を引きつけたのではないだろうか。 いかに使うか、という考え方をしているアルベドが大半なのに対し、この幼なじみはいかに作るか、を重きに置いている節があった。 (後にマキナ派のリーダーとなる素質が既に現れていたとも言えるのだろう。) リュックはどちらかといえば使う考え方であったが、この時代を考えると世には前衛的ともゲリラ派とも言えてしまう作る考え方を自然と持ち合わせていた彼は、憧れの対象となった。 隣同士で同じ機械を分解しながら、この彼は今何を空想しているんだろう? 私にとっては一本のねじでも、彼にとってはもしかしたら奇跡の一端であるかも知れない。 前をまっすぐ見つめて歩く彼は、現状打破を常に念頭に置いているリュックにとって、誰よりも魅力的であった。 しかし「それならば恋愛感情を抱いているのか」、と尋ねられると、・・・今のところ、ノーだったりする。 (もてるのは、わかるけど) 最近もっぱら女の子の話題に持ち上がりやすくなっているこの彼は、その性質と容姿から人気急上昇中である。 でもリュックがそうした対象として彼を見ることができないのは、恐らく憧れの感情が強すぎるためと、先に挙げたいとこの存在のためだ。 同じ頃のユウナは、既に死を見つめている。 その中で、全てのスピラに生きる人のために、父の背を追っている。 いくら「いい人がいたらすぐに結婚して・・・」と考えているリュックでも、いざとなると彼女のことが頭を過ぎってしまい、そうした感情にセーブをかけてしまう。 本人は、気が付いていないようだが。 (アタシにはまぁだ、早いのかねぇ) ガキなのかな?などと考えながら、その綺麗な、大変おモテになる幼なじみの顔を見つめた。 そういう話にはあまりいかないけれど、彼女などはもういるのだろうか。 異性の中で一番一緒にいると断言できそうな自分からしてみると、いないだろうというのが本音だが、そういうことはわかったものではない。 (やっぱ、ねえ、ほら、もてるし、顔きれいだし、いい奴だし、それから) 「リュッーーーっク!!!」 「はっ!!?」 突然どこからともなく名前を呼ばれ、リュックはぎくりと肩を揺らした。 この声は、アニキだ。 そこで彼女は、何故彼を追ってここまでついてきたのかを思い出した。 気になったから、だけではない。 今、アルベドは一族総出で大量の機械の調整をしていた。 目標はずばり、「シン」でも倒せるような機械を作ることだ。 そうして最近ずっと皆朝から晩まで、汗水流して働いていたのだ。 リュックもその例に漏れず、むしろ族長の娘として何か責任でも感じ始めたのか、人一倍幼い身体に鞭打って働いていた。 そこでふと目に止まったのが、ふらふらとどこかへ歩いていく件の幼なじみの姿だった。 疲れて少し麻痺していたかも知れない彼女の神経は、その瞬間一気に彼を追いかけることに行動目的をシフトしてしまったのだ。 (わ、忘れてたぁ・・・) 話を戻すと、そういうわけで、恐らくここにサボりにきた彼を追ってきたリュックも、結果的にサボり仲間となってしまっていて。 大方下にいるアニキがたまたま彼女を見咎め、その名を呼んだのだろう。 急いで下に戻らなければ。 その思いのまま、腰を持ち上げようとした。 「!!!」 しかしその瞬間、前のめりに倒れ込んでしまった。 正しくは、何者かの力によって前に引っ張られた。 この際、何者と呼ぶのは回りくどいというものだろう。 「ぎ、ギップル!」 「しーーー、煩いとばれる、黙れ」 今の今まで眠っていた幼なじみ・・・ギップルは、いつの間にやら緑の瞳を薄く開き、胸元にリュックを引き寄せた。 否、下から見えないように、この狭い空間に押し込んだ、といった方が正しいだろう。 「い、いつから起きてたの?」 「最初から・・・ではないな、気づいたら股の間にお前が難しい顔して座ってた」 「股って・・・」 遠くから、アニキのきーきー声が聞こえてくる。 アニキの声はアルベドでも相当やかましい方ではあるが、それでも今リュックの耳に一番大きく聞こえるのは、このギップルの押し殺したような声だった。 「何してたの」 「それはこっちの台詞!あんた堂々とさぼってくれちゃってさぁ〜」 「悪い悪い、眠かったもんで」 「皆一緒だっつーの!・・・ん?」 そこでふと気が付いたのは、ギップルの両目の下に隈ができていることだった。 幾ら昼夜問わず熱心に働いているとは言え、まだ子どもの自分たちが、隈がはっきり見えるほどにこき使われる状況ではない。 「何、この隈?」 「え、これは・・・」 指摘した途端、まるで照れるかのように目を逸らしたギップルが気になり、リュックは更に身を乗り出してギップルの瞳を見た。 疲れがこのまだ幼い顔に映っていて、正直驚いた。 夜中に何か別の仕事でもしているのだろうか。 「・・・あのさ」 「ん?」 「ちょっと・・・離れろ、くっつきすぎ」 「へ?」 強引に身体を引きはがされたのでそれ以上は観察できなかったが、眠かったというのは本当らしい。 気になればとことん、のリュックは、眉根をしっかりと寄せて、また彼ににじり寄った。 「夜中まで機械いじりしてるの?」 「・・・・・・・・・まぁ」 「何で!?」 「・・・」 なかなか口を割らないギップルに焦れ、更に接近しようとしたリュックであったが、何故か彼女のその行動によって観念したらしいギップルは、ため息を一つ吐いた。 「・・・お前、忙しそうだったから」 「アタシぃ?」 「お前は!チビのくせにちょろちょろ頑張りすぎなんだよ!だからちょっとくらい、その・・・、・・・手助けになれば、と思ってよ・・・」 尻すぼみなその言葉が、だんだんと朱に染まっていくその頬が、幼いながらもリュックの胸を打った。 (アタシ、こいつがいいな) 本能的に思い浮かんだその言葉は、あまりにも自然に浮かんだ感情だったためか、一瞬リュックの胸に浮かんだきり、また深い感情の海に沈んでしまった。 「・・・ありがと」 「・・・」 「でも、昼間寝てたら意味ないじゃん。・・・昼に、頑張ろうよ」 「・・・適度にな」 「うん!適度にね」 ギップルの隈をそっと指先でなぞり、えへへと笑った。 とてもとても嬉しかったから、それを少しでも伝えたかった。 ギップルは少しの間黙り込んでいたが、やがてくしゃりとリュックのオレンジの濃い金糸をかき混ぜ、そして微笑んだ。 「行くか」 「うん」 自然と手と手を取った二人は、足取りも軽やかに螺旋階段を下っていった。 地上に着いた途端、族長から熱い鉄拳をくらってしまったのは、仕方がないということで・・・。 End. 一応]よりも前の妄想でした。恋心の前兆というか・・・。リュックちゃんはアーロンさんに恋したとかティー君に恋したとか色んな妄想ができますが、私としてはユウナんがとりあえずの安息を手に入れるまでは無意識にセーブしちゃって恋できないんじゃないかなと思いました。人一倍ユウナんのこと大好きですし。この辺はどんどん妄想が膨らんでしまいますね〜;; このお話の短めのおまけをそのうちアップする予定ですので、よろしかったらそちらもどうぞv 20080818 |