ある日の昼下がり。 ミヘン街道は中核に位置する旅行公使にて、集団をなすアルベド人たちが汗を流していた。 このご時世にこれだけのアルベド人が集まるということ自体珍しいことであるが、これにはちょっとした理由があった。 成り行きデート 1 メンバーはお互い見知った面々である。 そしてその集団のリーダーは、シンラとリンであった。 何だか色々あって集まった・・・、というか。 シンラ曰く「人手が足りないし」によって半ば強制的に呼びつけられたカモメ団(何でも言いつけられるし)と、ギップル含むマキナ派精鋭数人(僕と並ぶマキナの知識を持つ人間が必要だし)である。 何故彼らが集められたのか。 何ということはない、リーダーたちの例の何やらの研究を助けるために呼ばれたのだ。 始めはぶーぶーと文句を言っている人間もちらほらいたが、結局機械いじりが何よりも好きな集団である。 作業開始15分ほどで、文句は一つ残らず楽しそうな会話に変わってしまった。 まあこれも、リーダーたちがアルベド人しか助成に呼ばなかった理由でもあるのだが。 何せ、彼らがさせられている仕事はどれもこれも大変なものだったからである。 仕事は全部で五日間、前金制で行われた。 一日を待たずして皆、機械いじりが好きなだけでは乗り越えられない仕事量であることに気が付いたし、また何故報酬がいつもの依頼金よりも高額であったのかということも納得がいった。 力自慢の面々も(というかアニキやダチ)、半日でひいひいと唸り、一日でダウンした。 二日目は仕方がない(byシンラ)ので休養を取り、三日目からまた仕事に駆り出されるらしい。 というわけで今日は、三日目。 それぞれがこの仕事を引き受けなければよかった、と後悔に明け暮れながら、それでも油まみれになっているところである。 そんな中、ひょんな用事で(曰く、あ、あれが必要だし。でも忘れてきたし。南部の作業場まで戻るのめんどいし・・・)、シンラにリュックが呼ばれた。 「ちょっと南部に行ってきてほしいし。必要な物があるし」 「はぁ〜?リュックちゃん今さぎょーちゅーだっつ〜の!」 「それは他に回すし。だからあれに乗って早く行くし」 そう言いながらびしっとシンラが指を指したのは、かなり大型のホバー。 その大きさを見ても、これまでさせられた仕事の内容を見ても、これからリュックを待っている事態を予想することは易かった。 「いーやーだー!!」 「我が儘言っても無駄だし」 「ぶー!」 「昔チョコボ訓練場だったとこだし。行けばわかるし。」 「てゆーか!、女の子一人で行かせる気!?」 「だって他の人は手ぇ放せないし」 「シンラ来なよ!」 「僕現場の指揮監督だし」 「リンがいるじゃん!」 「・・・僕まだ子どもだし」 「く〜っ」 中型・・・いや、大型ホバーで一人力仕事を押し付けられてしまった訳だが、しかしここで安請け合いする気など更々ない。 引き受けたら終わりだ、という直感が、先程からリュックの危険信号を刺激している。 何故ならここで一人で行ったら。 重たいマキナをほぼ一人でホバーに積み(多分あっちも忙しいから、がんばるし)、ぐらぐら揺れるホバーを全神経使って操り(一応新型ホバーだけど、ちょっとバランス悪いし)、ぜーぜーしながら戻ったらまた雑用を押し付けられ(仕事いっぱいだし。三日くらい覚悟するし)、そんなんじゃ仕事終わった頃には筋肉痛で動けないし(依頼金二倍払うかわりに、馬車馬の如く使うし)! さあっと、顔から血の気が引いていくのを感じた。 「無理だよっ!」 「人間不可能なんてないし」 「シンラの鬼っ!」 どうやら逃げられないらしいと悟り、リュックはガックリと項垂れてしまった。 シンラはといえば、勝ち誇ったかのようにふんと鼻息一つ残し、去っていった。 その背中がああ、恨めしい。 (もうっ、こうなったら自主休憩取ってやる!朝から働き詰めなんだから、30分くらいいいでしょ!) 一人でぶつぶつ言いながらホバーの方に歩いていく。 これからのことを思うと、先程まで従事していた仕事がまだ幸せだったような気がしてくるから不思議だ。 「ぐおー!死ぬー!」などと叫んでいるアニキがああ、恨めしい。 はあ、とため息を吐きながら運転手のドアを開けると、思わぬものを発見した。 ギップルだ。 「お?」 まさにリュックが乗らんとしていたホバーの運転席に、深々と座り・・・、自主休憩をしていた。 しかも呼吸が深いところから察するに、熟睡してしばらく経つのだろう。 「あーっ、ずるいんだぁ!!」 「ぅおっ」 腕を組み、午睡を貪っていた彼を指差し、こみ上げてくる怒りというか八つ当たりの気持ちのまま、リュックは叫んだ。 するとさすがにはっとギップルが目を覚まし、すっとんきょうな声を上げて飛び起きた。 「あたしらががんばってるときに、あんたって奴は〜!信じらんない!」 半身運転席に乗り込み、がくんがくんと音がするくらいにギップルの身体を揺らした。 リュックとしてはもう、色々な鬱憤やらを彼に全て吐き出してしまっているにすぎないのだけれど。 「わ、悪かったって!ちょっと昨日忙しくて寝てなくて」 「ぶー、そんじゃあ、仕方ないけど」 「仕方なくないし」 「!」 「げっ」 振り返ると、仁王立ちのシンラが立っていた。 どうやら一部始終を見ていたらしい。 マスクをしているから表情は伺えないが、声の調子からして・・・、怒っているのだろう。 「働かざる者食うべからず・・・だし。常識だし」 「あー悪かったって!今日の報酬いらねえから!それでいいだろ!」 「お待ちなさい」 いがみ合うシンラとギップル、何だかんだでこの間にちゃっかり休憩をとっているリュックの背後で、第四の人物が声をあげた。 女性に大きく魅力を振る舞うその容貌で、颯爽と現れたのは、もう一人の責任者だった。 「リン!」 「ギップルにはきちんと報酬は差し上げます。しかし仕事量をアップしましょう」 「うげっ!ま、まあ仕方ねえな」 「リュックさん」 「!はいよ」 やや蚊帳の外になっていたリュックは、お茶を啜りながらピシッと手を伸ばした。 どこから持ってきたのかどこで沸かしたのか、お茶請けまで用意されている。 「せっかくですから、ギップルを運転手としてお供に連れて行ったらいかがでしょう」 「おお!運転手兼力仕事当番?」 「げ・・・」 「・・・まあ、それでよしとするし」 未だぶつぶつというギップルを運転席に押し込み。 一人で行くはずだった仕事に思わぬ特典が付き、彼がさぼっていたことを理由に重たい作業は全てやらせてしまおうと算段をつけながら、にこにことリュックが助手席に収まり。 「若いんですから、きっちり使っておやりなさい」という一言を言い放ち、リンがドアを閉めた。 「言っとくけどなぁ、俺一人に押しつけようったってそうはいかねぇからな」 「おんやぁ〜?そんなこと言える立場なのかな?言っちゃうかんね、ギップルが涎垂らしながら昼寝してたこと!」 「涎なんぞ垂らすか!」 「垂らしてたもーん!スフィアにばっちり納めたもーん!」 「嘘つけ!」 そんな会話をしながら、二人は南部へと去っていった。 残された旅行公使の二人はといえば。 「何でギップルまで行かせたの?訳わかんないし」 「ふふ、大人の事情というものがあるんですよ」 「むか。子ども扱いするなだし」 「じゃあ言いましょうか。ギップルは、別にずっと眠っていたわけではないんですよ」 「え?」 「シンラくんがリュックさんに話しかけたとき、私の後ろでネジの分類をしていました」 「??」 「そしてシンラくんがあの大型のホバーを指さしたところで、彼はそっと席を立ったんですよ。・・・おわかりで?」 「・・・僕、まだ子どもだし」 「はっはっは」 リンの朗らかな笑い声が、晴れやかな青空に響き渡った。 つづく そんなわけで成り行き上、デートでございます(笑)タイトルに全くヒネリがありません・・・。まあ大したことしませんけど!普通にデートさせる予定です。シンラの監視の目をくぐりながら・・・?笑 (091122) |