プロロン プロロン


ホバーは重たい身体を揺らしながら、規定速度よりもかなりゆっくりなペースで街道を行く。
運転手がわざとのんびり進んでいると言うよりは、新型のくせに行き届いていなかった手入れのせいであると言った方が的を射ているだろう。

しかしその間に疲れた身体を静養させられるので、二人には願ったり叶ったりなことでしかなかった。









成り行きデート 2









「シンラって鬼コーチだよね・・・」
「確かに」


ホバーの振動を全身で感じながら、何気ない会話をぽつぽつと紡いだ。
ぽつぽつと・・・とはいえ、別に会話が盛り下がっている訳ではない。


「あれ大人になったら怖いよ〜、絶対」
「そして俺たちはその頃もあいつにこき使われてるんだろうな」
「ありえる〜」


緩やかなホバーの進みで、何とものどかな気分にさせられるのだ。
しかも先ほどまで強いられていた過酷労働を思うと、尚更。
到着先で肉体労働が待っているとはいえ、今のある意味何もしなくてもいい時間は、それまで張りつめていた集中力をこれでもかというほどに緩和させた。


「ふわぁあ・・・」


それだから、欠伸も出るというものだ。
油断しすぎて大きな欠伸をしたリュックは、その欠伸をばっちりギップルに見られていたことに気がついていない。
しかも呆れたように、でも可笑しいことが隠せなくてくつくつと小さく笑われていることも、どうやら気がついていない。
今のリュックは口こそ動かせど、ガス欠状態とも言えた。


「あふぁああぁ・・・」


もう一つ。
一回目の欠伸よりも間が抜けていて、長い。
あまりにも酸素を取り入れることにがんばりすぎたためか、涙すら出てきた。

そしてまたギップルがそれを目撃し、・・・というよりは視界の端に捉え、また笑う。
そのとき漸く、リュックは笑われていることに気がついた。


「わ、笑うなぁ!」
「だっておま、気持ちよく欠伸しすぎだろ」
「ぶー、だって、さっきの今でこんなにのんびりしてると、眠くて・・・ほわわ・・・」
「またかい」


暢気なもんだ。
バカにしたようなことを言いながら、でも彼の口から溢れる笑みは優しい。
でも半分頭が寝てしまっているリュックからしたら笑われたことは笑われたということにしかならないから、まあ、面白くはない。
むしろバカにされているようで、少しムッとした。


「まー、自主休憩してた人にはリュックちゃんのこの眠さはわからないでしょうけどぉ!」
「それは言うなっつーの」
「ぷんだ。あっち着いたら覚悟してなよ〜!」


ムッとした、とはいえ、別段それほど怒っているというわけではなく。
ただの口遊びのようなものだ。
会話を楽しむ、コミュニケーションを楽しむ、そんな感じの話だ。

こういうことは二人にはしばしばあることだった。
お互い軽い悪口を言う、たまに少し言い過ぎる。
でもそれらは全て戯れだということが暗黙の了解だったから、特に引きずることもない。
だからつまりこの後現地に着いたって、リュックはギップルと同じくらいはりきって働くつもりでいた。

そんな心持ちでの言葉だったから、次のギップルの提案は、少しだけ意外だった。


「じゃ、寝てれば」
「・・・へ?」
「だから、着くまで」


目的地に到着するまで、眠っていてもいいという許可が出た。
それは、条件だけ見ればとてもとても魅力的な言葉だ。
でも今のこの状況で言われても、混乱してしまう。


「え・・・だって、あんたそしたら、暇じゃん」
「別にいいよ、あっちでこき使われるよかましだ」
「・・・」


あれ、あれれ?

今の瞬間突然、ぽかんと穴が空いたように胸が寂しくなってしまったのは、気のせいだろうか。
リュックの中で、言わば二人の言わなくても伝わる約束のようだったものが、崩れてしまったような気がした。
軽口はただのコミュニケーション。
こき使ってやるとか、全部押しつけてやるとか、今までだってそう言うことはあったけれど、どのときも結局は二人で協力してきた、のに。

何となく時間の流れを感じた。
今更だけれど、会わなかった数年の長さを感じた。
こんなときに、何故だろう。


「・・・じゃあ、寝る」
「おう」


だからどことなく、拗ねたような気持ちで目を瞑った。
すると驚いたことに数秒で睡魔に襲われて、思っていた以上に自分が疲弊していたことに気がついた。
そのことに少し意外な気持ちを感じながら、また寂しいような気持ちを抱えたまま、意識を手放してしまった。

おやすみも、ありがとうも、言えなかった。










「シドの娘、どこ行ってたんだよ」


不意に背後でギップルの声がした。
振り返るとやはり彼がいた、けれど、その姿が懐かしいもので、面食らった。
それはまだ彼がホームで暮らしていた頃、まだ手足が伸びきっていない幼い頃の姿で。
でも驚いたのは一瞬、何となくその光景に順応してしまい、その彼と普通に会話を始めた。


「べっつにぃ。何となく、寂しくなっただけ」


むう、と下唇が出た。
今もくせになってしまっているそれは、ご機嫌斜めのときに発動される。
それを彼も知っているから、苦笑を返された。


「訳わかんねーことで拗ねんなっつの」
「訳わかんないって何よぉ!あたしは・・・」
「まぁたつまんねぇことでごちゃごちゃ考えてんだろ」
「・・・つまんなく、ないもん」


そう、つまらないことなどではない。
自分にとって、大切なことだったのに。
昔と今の彼と自分を支えるかのような、大切な決まり事だったのに。
幼い彼を目の前にしていたせいか、リュックの気持ちまで幼くなってしまったようで、感情のまま泣きそうになってしまった。


「俺に言わせりゃ、つまんないね」
「・・・」
「だって、そうとは限らないだろ」
「・・・ん?」


言葉の意味がわからなくて、涙目のまま顔を上げた。
するとそこには、今のギップルの顔。
一瞬だけ、胸が高鳴った。


「ほら、よく見てみ」










「・・・ん・・・」


ゆっくりと、目が覚めた。
思いの外眠りは浅かったようで、まだ目的地には着いてなかった。
先ほど目を瞑ったときと同じ、横にはギップルがいて、周りの風景はのんびりと進んでいて、空は快晴で、足下には花がそこかしこに落ちていて。

はた、と気がついた。


「・・・花?」


同じではなかった。
足下に何故か落ちているいくつかの花は、いつの間にここにあるのだろうか。
乗り込むときには確かになかった。
眠りに落ちるときも、勿論。
それでは、いつの間に?

不思議な気持ちのまま、とりあえず一つ拾ってみようと前屈みになると、ぽろぽろとまた、膝に花が落ちた。


「ぇ、え?」


驚いた気持ちのまま今度は膝に手を伸ばした。
その際にもぽろり、今度は頭から花が落ちた。
リュックはますます、状況についていけなかった。

花自体は何でもない、その辺に咲いていそうなものだ。
野草とも言える、でも可憐なその姿は何種類もあって、砂漠を出てスピラ中を旅する中で目にしていったものだ。


「ギップル、これ・・・」


恐らく、というか必然的に隣の彼の仕業だろうと思い、眉根をしっかり寄せたまま疑問を投げかけた。
すると返ってきたのは、欠伸をバカにしたときと同じ、やや堪えたような笑い。


「はは、びっくりした?」
「当たり前じゃん!ね、これ、どうしたの?」
「べっつに!お前寝かせて走らせてたらその花がすっげえ咲いてるとこがあったから、とりあえずちょっと摘んでお前に振りまいてみただけ」
「何で、そんな・・・」
「驚いたろ?」


にやりと笑う顔は、悪戯が成功した子どものような、したり顔。
昔から馴染んだ笑顔だ。

眠りから覚めたら身体中に花が散りばめられていた・・・なんて、何というロマンチックなシチュエーションだろう!


「うん!びっくりしたぁ!!」


だからそれに返すリュックの笑みも、自然と昔からの心からのそれになった。
まるで大輪の花が、ぱっと咲いたかのよう。
笑顔を返してすぐに花に夢中になってしまい目を落としたリュックは、瞬間ポッと染まったギップルの顔には気がつかなかった。
すぐに彼は掌で顔を覆ってしまったから、もう彼女には見える機会はなかった。


「あ」
「ん?」
「ギップル、ありがとうね」
「・・・おー」


そんなこんなでまたぽつぽつと会話をしていくうちに、ようやくのんびりホバーは目的地の南部・元チョコボ訓練所に着いたのだった。









つづく









ホバーゆっくりすぎ、とか突っ込んじゃいけません^^笑
目的地までの道草(という程ではないですが)話でした。ギップルさん驚かそうとして、最後は逆に驚かされちゃったわけですね!というかいいチップもらっちゃったんですね!てかリュックのこと好きすぎですね!笑
そんなわけでようやく次、お仕事です。はい、こんな感じでずっとギプリュが無意識にイチャイチャするだけですこの話!
(091130)
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