シンラとリンの力は計り知れない。 もしかしたら指先一つで世界を転覆させる力すらあるのではないか。 北部旧街道の作業場は、そんな絶望的な気持ちを感じさせるような光景だった。 何十人・・・否、何百人という単位の人間がひしめき、細々と小さなネジを回していたり、二人が乗ってきた大型ホバーと同じくらいの大きさの鉄板を右へ左へ移動させていたり。 仕事は様々であるが、皆それこそ馬車馬の如く働かされている姿は、いっそ宗教的だ。

ぶるり、と背中に冷たいものを感じた二人は、誰かに手を貸してもらって荷運びをしようとしていた考えが甘かったことに漸く気がついた。









成り行きデート 3









「殆どゴーモンだよ、これ!」
「全くだ」
「せぇっかくさっきまでお花で気分絶好調だったのにさ!最悪!」
「・・・」

眉根にしっかりと皺を寄せて、苦虫を食い潰したかのような顔を揃ってしていた二人であった。 しかしギップルはといえば、途中まで揃って文句を言っていたというのに、口数が減り出した。

「まあまあ、経営者ってのはいつでも大変なんだよ。俺だって発掘の面接なんかやってらんねえほどめんどくさいけど、大切なことだからな、やってるわけだ」
「それってぇ、今関係なくなーい?」
「あるある。俺もある意味経営者だからな。いやちょっと違うか、代表者か」

それどころかシンラたちをフォローしだす始末。 気紛れなのだろうが、どちらかといえば文句を言い合いたかったリュックとしては、やや勘に触る言い方でもあった。 しかし彼女はまだ花の件で気分がよかったので、とりあえず不問とすることにした。 些細なことで喧嘩をしている場合ではないと思うところもあるのかもしれないが。

「でさー、うちらが持ってくものって何だっけ?」
「あれ、そういえば言われてないな」

どうやら肝腎なことを聞き忘れていたようで、二人揃って小首を傾げた。 しかし二人ならまだしも、あのシンラやリンが頼み忘れをするとは考えにくい。 恐らく現地に到着すればわかるものなのだろうと判断し、とりあえず休憩中の人間を選んで声をかけてみた。

「ああ、通信スフィアで連絡が来てるよ」
「ああ」

なるほど。 手が回されていたことに感心するやら、自分たちがいかに疲れて頭が回らなくなっているかを感じるやら。 それはともかく、案内されるまま旧街道を奥へと進んだ。 荷物を載せるという名目上、乗ってきた大型ホバーを運転士ながら案内についていったのだが、段々と道が狭まり、ホバーに乗ったままでは入れないような小道に突き当たった。 そしてそんなところに、それはあった。 あったというか、何というか・・・。

「無理」

思わず声がはもる大きさ、の、木材だった。 何故にこの量の木材を運ぶのに、スタッフをたった二人しか寄越さなかったのか大きく疑問符を浮かべられるほどには、大した量である。
ホバーに載せるのだって、まあ何とか載るだろうが、軽く周囲に衝突しながらでないと前に進めないのではないかと思われる。

「むりむりむりむりむりーーー!!!ちょっとおおおお!どういうことなわけ!」

遂に何かが爆発したらしいリュックは、とうとう発狂してしまったかのように天に向かって叫んだ。 その隣で、不満よりも呆れが先行してしまったらしいギップルは、とりあえず無理だと言うリュックの意見には賛成なので、指示を仰ぐべくシンラに通信を入れた。 二人で運ぶとしたら恐らく、一本の丸太棒を半日がかりでやっとと言ったところであろうそれらは、あとせめて10人ほどのスタッフを必要としていると考えたからだ。 すると。

『これ以上そっちに人数割り振れないし。そっちで何とかするし』
「はあ?」
『じゃ、僕は忙しいから切るし』
「ちょっ」
『あ、なるべく早くしてほしいし』

ぶつっ。

「こらこらこらこらこらーーー!!!おいいいいっ、どういうことだぁぁ!」

遂にはギップルまで何かが爆発してしまったようだ。 案内をしてきたアルベド族の男は、同じアルベド族の中でも世界的に有名であり偉大でもある二人の人間に対して、いつもなら尊敬の念を抱いているのだけれども、今は何となく呆れの感情がこみ上げてくるのを感じた。 勿論シンラの対応は酷いと思うし、自分だって同じ立場であれば憤慨するし、それこそ叫んでいるかも知れない。 でもいざこの二人がそうした行動をしているところを目の当たりにすると、・・・何となく、溜息が出てしまう。 ああ、この二人も結局ただの人間なんだなあという溜息だ。 それは呆れというよりももしかしたら、安心に近いのかも知れないが。

「ギップル!」
「何だ!」
「これはさあ!もうさあ!自主休憩をこまめにとりつつやるしかないと思わない!?」
「ああ!力一杯賛成だ!」

どうやら結論が出たらしい。
とりあえずシンラの指示は無視し、自分たちのペースで仕事をすることにしたようだ。
まあ懸命とも言える。
頑張ってどうにかなる次元の仕事ではないし、他の人間の手が空けば手伝いに仕えるからだ。
打算的というか、生きるための知恵というか、しかしとにかくやる気だけは復活したようで、肩をぐるぐる回したり伸脚をしたり、準備体操のようなことを始めた。

「さすがですねえ」
「へ?」
「ん?」

そこで、見守っていたアルベド族の男が口を挟んだ。 先ほどの安心の溜息のように、ふと溢れてしまった言葉であったのだろう。

「族長の娘で伝説のガードの一人であるリュックさん。マキナ派のリーダーであるギップルさん。お二人は昔っから他の人間とは何かが違うとは思ってましたけど、思い切りといいやる気といい、桁違いだ。俺だったら仕事投げ出して逃げちゃうかもしれないですよ」

二人の姿勢に圧倒、もしくは再び尊敬の念を掘り起こされたのだろう。 普段から思っていたのか今強く思った事なのか、とにかく思いつくままに話すアルベド族の男の言葉はまだ続いた。

「それを最終的にはやっちまおうってんだから、同じアルベドとしても鼻が高いってもんだ。それにお二人、息も抜群で・・・、協力したら、何でもできちまいそうですね。こりゃもし夫婦にでもなったりしたら大変だ!とんでもなくたくましい子どもができちまいそうだなあ、ははは・・・、は」

そこまで言って、男は違和感に気がついた。 違和感というか、どこかくすぐったいような、恥ずかしいような、変な雰囲気だ。 その正体は、目の前の二人をチラリと見ればすぐにわかった。 同時に、自分が少し余計なことまで言ってしまった事も。

「・・・あ、俺、仕事残ってますんで、戻ります。手が空いたら手伝いに来ますんで、それまで頑張って!では!」

それならばさっさと退散・と言わんばかりの逃げ足で男は去った。 そして残された、二人はと言えば。

「・・・な、何言ってんだか、ねー、あいつ!」
「あ、ああ、昔っから変な奴だとは思ってたけど、ぶっとんでんな、別に普通のことなのに、な、はは」
「ホントだよ、別に、フツー・・・」

しーん。 何となくいたたまれない空気が暫く続いたが、やがて心の整理が着いたらしい二人は頃合いを見計らい、作業を再開した。

その日に限っては、どんなにくたくたに疲れ切っていても、少しでも手と手が触れ合ったりするとお互い過敏に反応して大声で謝ったり弁解したりするなど、青臭いエピソードが何回か発生したらしい。






結局材木運びは丸三日かかった。 当たり前のようにシンラはぷりぷりと怒っていたが、ボロボロの二人をはじめ、結局自分の仕事が片づいた後で駆り出されたアニキやダチらその他の人間にも泣きながら抗議され、リンにまで諭され、最終的には「悪かったし」とぼそりと呟いたらしい。

しかし身も心も疲れ切っている筈の最終日の夜、例の二人は打ち上げと称してルカの飲み屋に肩を並べて行ったらしい、とか・・・。 その後何が起こったかは、二人だけの秘密ということで。









おわり









そうして二人は成り行き上、飲み屋デートに行きましたとさv・・・という、感じで、締めさせて頂きました。ぐだぐだ長かっただけの話になってしまったような^^;;
2から随分と時間が経ってしまいました。申し訳ない;;でも続いてるけど続いてないような話なので、気楽に読んで下さればと思います。3はアルベドの男Aがグッジョブということで^^そしてこれがきっかけでこのお話の二人はお付き合い、果ては結婚ということで。笑
それではっ、ここまでお付き合い頂きましてありがとうございましたー!
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