ユウナんとの通信後はそれはもうテンションがあがってしまって、終わるなり脱兎のごとくブリッジを抜け出して、部屋で荷造りをした。 もちろん明日朝っぱらからビサイドに乗り込んで、明後日の準備に精を出すつもりで。 たまたま明日はミッションの予定はなかったし、明後日はシンラのところからのミッションだったから、まあ事情を話せばわかってくれるだろう。 お祭り大好きな性格が幸いしたのか災いしたのか、この辺りからあたしはお腹のことを意識することをしなくなっていた。 ほむら、ひとつ 3 「ユウナーーーん!!!」 「リュック!」 数ヶ月ぶりのビサイドで最初に出迎えてくれたのはユウナんの笑顔で、自分でもわかるくらいに満面の笑みになってしまった。 走っていってぎゅーって抱きしめて抱きしめ返されて、あの短気なブリッツ選手が見たらヤキモチでも焼かれそうなくらいに甘えてみた。 そうしたらユウナんはわかっているのかいないのか優しくあやすみたいに背中を撫でてくれて、それまでの数日間身体の中でもやもやしていたものが一気に目から溢れ出しそうになって、必死に堪えた。 それからは、既に始まっていた準備にあたしもアニキもダチも参加した(アニキなんてユウナんに久々に会えたもんだから超興奮してたし)(ティーダも帰ってきたってのに、いつになったら諦めるのかね)。 男組はこの日、ビサイドに来るブリッツファンのために出店の組みをしたり、夜のキャンプファイヤーのための組み木を切りに行ったりするようで。 女組は出店を始め諸々の料理の準備やら、寺院内の掃除やら、宿泊施設の掃除やら。 あたしは料理なんてガラじゃないし、かといって男組に混ざるだけの腕力はちょっとなかったから、寺院の手伝いでもしようかなって思っていたところで、大好きな人に名前を呼ばれた。 「リュック、一緒にお料理しない?」 「お?あたしがぁ?」 「うん、ね」 ね・ってユウナんに押されたら、そうそう拒否なんてできないって。 そんなわけでリュックちゃん、苦手な料理にチャレンジです! * 包丁って、こんなに難しいものだっけ。 キャベツって、こんなに切れないものだっけ。 まな板って、こんなに切れやすいものだっけ。 火加減って、何・・・。 あれぇ? 「ちょっと、リュック!?」 「ほわわっ」 ボンッ! 気づけばフライパンが大火事、・・・これって、どうよ。 「リュックあなた・・・ふざけているのかしら」 「そっそんな怒らなくったっていいじゃんかぁ〜!苦手なんだからしょーがないじゃんか!」 焼きそばを真っ黒コゲの炭にしてしまったあたしの後ろで怒りオーラを出しているのは、ルールー。 現状はまあ、あたしのせいで?作業が遅れてはいますけど? でもさぁ、がんばってるんだから認めてくれたっていいじゃんか! 「まあまあルールー、リュックだって自分なりにやってるんだから・・・」 「あううユウナん〜!」 「そうやって甘やかすからこの子はいつまで経っても焼きそば一つできないのよ!」 おーおー、恐妻がぷりぷりしてるよ。 でもあたしもこの歳で焼きそば一つできないのはどうよって思うから、実は凄いしょんぼりしてるし反省もしてるし。 素直になれない性格だから、謝る一言ってのが難しいんだけどさ。 「全くあんたは・・・ユウナを見習いなさい!毎日毎日ティーダのために栄養バランスまで考えて料理作ってるんだからね」 「ちょちょ、ルールー!?」 確かになぁ、ユウナんは女の子の鑑だと思うよ。 服装はあたしがカモメ団入団記念にあげたのを好んで着てくれてるらしいからあれだけど、女性らしいおしとやかさとか気品とか常に漂わせてるし。 まだ召還士になる前から炊事洗濯一切自分でやってたらしいし。 ティーダが帰ってきてからはもう専業主婦って感じで頑張ってるし。 ・・・あたしは。 うーんと。 あ、洗濯もの干すのは得意だよ! 「それじゃああんた、結婚してから困るわよ!」 「・・・あはは、結婚って、まだまだだよ〜」 自分で驚いたのは、結婚ってキーワードにめざとく反応しちゃったことだね。 いやいや、気の迷いだって。 憧れの延長線上っていうか。 昨日までのもやもやもそれが答えなら一気に霧散するとか考えちゃったっていうか。 ・・・そう簡単でも、ないんだけどね。 「ほらっ、また!」 「ぉわっ!」 ぶすぶす言い始めてた卵焼きを寸でのところでひっくり返した。 もう、そのことは考えたくないんだっつの! ・・・あ、まだ予約してなかったわ・・・、今夜にでも電話しとこ。 「・・・ケッコンなんて、したくないよ」 「え?」 「まだ、したくない」 「リュック・・・?」 「はっ、あ、何でもない!」 気を紛らわせるためにまた卵焼きをひっくり返したら意外と綺麗な色をしていて、ルールーに自慢してやったら生暖かい目で見られた。 もー、ムカツキ! ルールーがあっと驚くようなの、作っちゃうんだからねー! そうしてフライパンと格闘してたら、いつの間にかユウナんがいなくなっているのに気が付いた。 不思議に思ってルールーに訊いたら、どうやらティーダから通信が入ったらしい。 お熱いこって。 今となっては昔持ってた結婚観なんてなくなってしまっているんだけど、でももしするんだとしたら、あたしはユウナんとティーダみたいな恋愛結婚がしたいって思う。 まあ、あれを普通の恋愛の枠に収めていいのかって言ったら微妙だけど、決して吊り橋効果(最近じゃロミオとジュリエット効果って言い方もあるらしいよ)ではなかったと思うし。 二人がお互いを大事に思ってるのは、いつもひしひし伝わってくるし。 だから、間違ってもデキチャッタケッコンなんて、受け入れられないし、したくもない。 * 「明日ね、ファンの人たちが来る前に朝一で帰ってくるって」 にっこり笑顔でユウナんは言った。 甘いやりとりでもあったのかな・なんて想像しながら、あいつがユウナんに歯の浮くようなセリフを言うのは凄く簡単に想像できるな・とも思った。 「それでね、ギップルさんも来るみたいだよ」 「はっ!?」 何であいつの名前が。 いや、ユウナんとパインはそのことでたまーにからかってくることがあったからあたしの気持ち知ってるんだろうけど、それでも何で。 「今回決勝の相手がアルベド・サイクスだったでしょう。その応援に行ってたんだって。アルベド応援団って言って軽く百人はスタンドに陣取ってたらしいよ」 「・・・へ、へぇ」 「負けちゃったから残念会開いてたところにオーラカの選手達と鉢合わせちゃって、お酒が入ってたのもあって暴動になりそうだったところをギップルさんと二人で止めたんだって」 「へぇ」 「・・・来てくれるの、嬉しい?」 「だっ誰が!」 ここに、折角来たのに。 今だけはあの名前から逃げたいって、そんなにわがままなことかな。 突き出そうになる下唇を上唇で押しとどめて、何とかティーダの話を振ってユウナんをからかってやろうと作戦を練っていた。 手は自然と、お腹を撫でていた。 Continue. えーと、オーラカ祝賀会・前編みたいな感じで(いちいち小見出しつけなくてもいいよ) この話あんまり中身ないですけども(笑)久々にはしゃいでるリュックちゃんを感じて頂ければ!あ、ティユウはまだ結婚してないです(笑) 20081223 |